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福田真也さん

Nori SEKI さん

ケアホームについて


by Nori SEKI (米国)

前回から続く)
Q:どうしてケアホームを始めたのですか。

  不動産屋をしていたときに今の建物を投資用として買いました。だれかケアホームをする人に売るつもりでした。ところがなかなか売れないので、自分で始めることにしました。始めるためには経験が必要でしたので、アジアンコミュニテイナーシングホームで6ヵ月ボランティアをしました。40時間の講習も受けました。この講習は1回受ければいいというのではなく、事業を継続している限りは2年に1回受けなければなりません。場所もラスベガスであったりハワイであったりいろいろで1週間の講習の後観光したりしました。それから消防署の建物に対するチェックを受けて申請書を出しました。そして1994年にAmerican River Care Homeを始めました。

Q:ケアホームの経営条件は厳しいものですか。

  そうですね。Title 22条という規則を決めた法律があります。例えば、給湯器から出るお湯の温度はカッシ120度、摂氏で言えば49度ぐらいでしょうか、と決められています。これは間違えてお湯に触れても火傷をしないようにと配慮されたものです。また2人部屋はいいけれど、3人部屋は認められていません。勿論、ナーシングホームのような施設には6人部屋もありますが…。

Q:経営は順調でしたか。

  初め日系人が2人入りましたが6人満室になるには1年ぐらいかかりました。今のように入居希望者が待機しているという状態になるには長い年月がかかりました。というのはできてから1年や2年というのではやはり信用が足りないのです。募集は主にお寺に頼みました。日系人はお寺に行くことが多いからです。

Q:入居者はどんな人たちですか。

  現在の入居者は全員、自費で経費をまかなっている比較的裕福な日系人です。ケアホームの中には生活保護費をもらっている人を対象にするところもあります。そのようなホームは簡単な生活上の世話をするだけに留まって身体的精神的な障害が出てきたときはナーシングホームに送り込むことにしています。

Q:どんなことに苦労しましたか。

  どこの国でもお年寄りの世話をするのは本当に大変です。お年寄りとこちらの都合を合わせられないとさまざまな問題が生じます。一人一人みんな違いますから、入居してきてその人の癖などをつかむまでは苦労します。あるおばあさんは自分のウンチをたんすにしまったり、妻のスーツケースに入れたりするので困りました。勿論怒ることもできません。また、あるおばあさんは黒人に対する差別が酷く、黒人を見ると「黒んぼ帰れ」と大声でいうので病院などで困りました。退院のときに病室が同じだったアフリカ系アメリカ人が「退院できてよかったね」言ってくれました。すると彼女は「お前たちにはうんざりだ」という始末です。そんなとき相手に「痴呆なので許してください」と言ってひたすら謝ります。私たち日系人も白人から差別されているから、差別される人の悲しみを理解しているはずなのに。
  中国人、韓国人も含めて日本人も漠然と黒人、メキシコ人を貧しい人が多いゆえに、軽蔑しています。 たとえば、黒人と結婚した日本女性は多く、同じく黒人と結婚した人たちとの交流を好む傾向があるようです。日系人、白人と結婚した女性はまたその範囲でサークルを作っているようにも見受けられるからです。ですから、日本人にも人種差別する側に出ることがありますので。

Q:ここでは原則的に最後まで面倒を見るのですか。

 ホスピスの適用を受けるのが、以前に比べて難しくなくなったので、問題なく最後まで面倒をみることができます。考えてみると、最後まで面倒を見た人は結構多いです。これは行政側の施策がだいぶ変化したことに原因があります。以前ですと、医療チーム(救急病院)は自分たちのシフトでは死亡者を出さないという誇りを持っていて、そのためには何でもしたのですが、今ではそれは考え物だとする風潮が一般的です。特に余命いくばくもないお年寄りには、当人、および家族がそう望めば、救命措置をしないかまたは延命装置を取り外すことが多々あります。意識不明の当人がどうしてそう望むのかが分かるかと言う点に関しては、当人がまだ元気で自分で判断できるときに、もし万一のときはこうしてくれと命の蘇生をも含めて、万一のときの治療についてしっかりと書面で決めているからです。そういう傾向を踏まえていることもあり、ホスピスの適用が以前に比べて非常に楽になりました。

Q:ホスピスの適用というのはどういうことでしょうか。

 このホスピスとは死ぬ場所ではなく、あくまでも快適に人生の最後を過ごせるようにという医療プログラムです。これは自宅でも適用を受けることができます。この医療は治療ではなく、いかに快適に数ヶ月以内の人生をまっとうするために痛みのコントロールすることや、宗教団体との連携も含めた死ぬ準備をする手伝いみたいなものです。

Q:そのホスピスの適用がケアホームにも適用されるようになったのですね。

 ええ、以前ですと病院以外で死亡すると、司法解剖などが行われ、警察が関与してくるのが普通でした。それを嫌っていよいよ危ないなというときはお年寄りを病院におくりだしていたものです。私がこのビジネスを始めて数年はそのようにしていました。現在は死期が近づいてきたなと感じたらかかり付けの医師に相談して、また家族とも相談してホスピスの適用をしてもらいます。ですから、最後まで、法の問題に触れることなく、安心して見取ることができます。私は多くのお年寄りをこのようにしてここで見取りました。

Q:最後まで看取ることに賛成だということですね。

 ええ、私は最後まで看ることに大いに賛成です。住み慣れたところで死ぬのはおそらくほとんどの人の希望だと思います。ここはケアホームですが、お年寄りにとってはマイホームになってしまうのです。このことはこれまでの経験から分かります。誰もが自宅、というかマイホームに帰りたいと願っています。私は少しでもお年寄りの希望に添うように努力しています。

Q:ケアホームの仕事についてどう考えていますか。

  人に感謝されてお金をもらうことができるのですから、本当にいい仕事だと思っています。私はこの仕事が好きなんです。ただ家庭と施設が同じ場所にあるので、家族にとっては大変だと思います。24時間絶えず他人と一緒の生活ですから。

Q:そうですか。頑張ってください。
(2010年12月)