日本体験 外国体験 Experiences in different cultures
space
| 119 Ehab Ahmed Ebeid | 戻る back <<
 

エジプトの生活と日本語


 Ehab Ahmed Ebeid (エジプト)

−今日はエジプトについていろいろ教えてください。よろしくお願いいたします。イハーブさんはエジプトで日本語を勉強したとおききしましたが、どうして日本語を勉強しようと思ったのですか。

Ehab:元々教育者の家庭で育ったので…父親がアラビア語の先生だったんです。つまり国語の先生でした。正確に言えば校長先生だったんです。エジプトでは中学に入ると英語を、高校に入るとフランス語かドイツ語を学びます。それでドイツ語でもフランス語でもない、エジプトで話されていない希少価値のある言葉を学んだら、道が開かれるのではと考えました。1974年に初めてカイロ大学に日本語学科ができました。それは中東初の日本語学科でした。

−そうですか。

Ehab:私は1987年にカイロ大学の日本語学科に入学しました。

−日本語学科には学生が何人ぐらいいたんですか。

Ehab:毎年20人でした。

−卒業したらどんな仕事に就きますか。

Ehab:主に観光業界で働きます。観光ガイドとして働きます。

−日本語学科を卒業したら必ず仕事があるんですか。

Ehab:当時は需要があったということです。今は日本語学科がある大学も増えてきているし、市民講座のようなものもあちこちにありますから。

−そんなに増えてきたのは日本人観光客が増えてきたからですか。

Ehab:そうです。それに学科だけでなく副専攻として日本語を勉強している人もいますし、JAPAN FOUNDATIONの日本語講座もあるし。今ではアラブの方ではチュニジア・モロッコ・レバノン・ヨルダン・シリア・クウェート・サウジアラビア、最近はドバイの方にも日本語学科ができたそうです。

−そうですか。初めての日本語はどうでしたか。

Ehab:私は歴史・地理・ちょっとした古代文学などを勉強しましたが、日本語そのものの面白さにはまってしまって、将来は大学院で勉強しようと考えるまでになりました。

−では、エジプトで大学院を卒業したのですか。

Ehab:いいえ、1991年に卒業した後、留学するまで大学で助手をしました。その後1993年に国費留学生の研究生として、日本にやってきました。留学先は大阪大学の大学院の言語文学研究科の博士前期で、テーマは「アラビア語と日本語の比較対象研究」でした。その後後期博士課程に進学し満期終了退学となり、2004年の4月にいったんエジプトに帰国してカイロ大学で5年間准講師として日本語を教えていました。

−すごいですね。

Ehab:でも博士論文を書いていないし、博士号を取っていなかったので、もう一度博士号を取得するために2009年に京都大学の外国人共同研究員として1年間の約束で日本に来ました。その時、東京外国語大学がアラビア語の先生を募集していたのを知って、外語大で働くことにしました。

−途中で東京に来てしまったんですね。

Ehab:そうです。2010年の4月から東京外語大で講師をしています。

−ところでエジプトでは日本のことを勉強したそうですが、来る前と来た後では印象が相当違いましたか。

Ehab:私の勝手な考えですが、エジプトでは日本映画はほとんど上映されないので日本のことは知られていません。それで日本は先進国の一つなので、アメリカ映画で見るような高層ビルがたくさんあると思ってきました。でも実際には一戸建ての家が多くてびっくりしました。もっとモダンというかアメリカのような生活が主流だと思っていましたから。それが一番びっくりしたことです。

−家だけでなくほかのことも違ったでしょう。

Ehab:そうですね。エジプトとは文化が全く違いますから。例えば日本では電車やバスが時間通りに来るのが普通ですが、エジプトにはバスや電車の時刻表がないんです。

−えっ、じゃ、どうするんですか。

Ehab:適当です。来たときに乗るんです。

−じゃ、どこかに行くときどうするんですか。ずっと待っているんですか。何時間も。

Ehab:待ちます。1時間も2時間も待って来なかったら、タクシーに乗ります。何人かの人と一緒に乗る乗り合いタクシーです。

−じゃ、あまりバスを使う人はいないんでしょう。

Ehab:でもバスは一番安いんで使う人はいます。タクシーに乗りたくない人はひたすらバスを待つんです。

−じゃ、誰かと約束して会うのは難しいですね。

Ehab:そうです。すごく早く家を出るか、遅れることもあります。

−時間を守れないですね。

Ehab:守らなくてもいいというのではないですが、そういう社会だから相手が遅れても仕方がないと考えるので目くじらを立てる人はそんなにいないです。ただ大事な仕事の時は早めに出たりしています。

−バスは結構走っているんですか。

Ehab:日本ほどではないですが、発達しています。でも日本に来てバスや電車が時間通りにそれも次々に来るのでとても驚きました。エジプト人だけでなくどこの国の人も驚きますね。

−時間の流れ方が違うんでしょうかね。

Ehab:日本人なら5分遅れてもすみませんと謝ります。エジプトなら相手によって謝ることもありますが、みんな気にしません。タイムカードもありますし、仕事ならまずいですが。

−仕事の時間はきちんと決まっているんですね。午前9時から午後5時までとか。

Ehab:政府の仕事は9時から3時までです。一般の会社は5時までです。

−政府の人はいいですね。

Ehab:以前社会主義の国でしたからその名残です。

−給料も政府の人がいいんですか。

Ehab:いいえ、良くないです。国家公務員は普通ですね。ですからできたらなりたくないんです。

−大学の先生はどうですか。

Ehab:大学の先生は社会的名誉はあるんですが、公務員ですから、やはり待遇はそれほど良くないんです。エジプトでは一番お金の稼ぎ方が下手な職業だと言われています。

−じゃ、エジプト人はどんな仕事に就きたがっているんですか。

Ehab:お医者さんやエンジニアなど理科系の仕事です。ですから基本的に大学も理科系のほうが文化系より入学が難しいです。

−政治家はどうですか。

Ehab:政治家ですか。つい最近までムバラク政権で独裁でしたから、政治家になるためにはコネがあるか金を持っているかでした。選挙も今回初めて民主的な選挙が行われたんです。その前は見せかけの選挙でした。ですから政治家の息子は政治家になれました。不満があってもそれを言えませんでした。

−言ったら危ないと言うことですね。じゃ、日本に来て自由だと感じましたか。

Ehab:そうですね。自由すぎるかもしれませんね。

−宗教上のお祈りの時間は守っているんですか。

Ehab:お祈りは1日に5回します。1回3分から5分ですね。今妻は礼拝をしてきたところですよ。

−えっ、じゃ、イハーブさんもしなければならなかったのでは。

Ehab:大丈夫ですよ。一定の時間の間にすればいいんですから。

−そうですか。でもその時間内にできないときもありますよね。

Ehab:そうですね。仕事と重なっていなければ、できるだけその時間にしますが、仕事が終わってから家に帰ってすることもあります。次の時間にまとめてすることもあります。

−結構自由なんですね。ラマダンはどうですか。全員しなければならないのですか。

Ehab:赤ちゃんや小さい子ども、妊婦や授乳中とか病気の人はしません。

−やっぱりそうですよね。ラマダンは一年に何回ぐらいあるんですか。
Ehab:一回です。イスラム歴の9月にあります。西暦と11日違っていますから、毎年違う月になります。

−そうですか。エジプト人はほとんどの人がイスラム教徒ですか。

Ehab:10%ぐらいはキリスト教徒がいます。それからごくわずかなユダヤ教徒がいます。

−ユダヤ人もいるんですか、ユダヤ人にとってエジプトは暮らしやすいんですか。

Ehab:まあ普通に暮らしていますよ。ずっと昔からそこに住んでいたわけだから。国籍はエジプトで宗教が違うだけですから。イスラエルができてからもそちらに行かずにエジプトに留まっている人たちです。

−政治家はイスラム教徒ばかりですか。

Ehab:いいえ、憲法でイスラム教徒が90%、キリスト教徒が10%と割合が決まっています。大臣も何人かはキリスト教徒じゃないといけないんです。今回の補佐官は2人がキリスト教徒です。

−専門の日本語についてはどうですか。

Ehab:日本での生活が20年にもなるので不自由ではないんですが、たまには分からないこともあります。

−とても上手な日本語を話されていますよ。ところで日本語の研究はどうですか。

Ehab:面白いです。特に日本語の曖昧さが面白いです。

−アラビア語ははっきりしているんですか。

Ehab:日本語に比べたら、はっきりしています。また日本語にはアラビア語で言えない表現があって、それにはまっています。例えば「よろしくお願いいたします」などです。これは英語にもないですね。訳せるんですが「よろしくお願いします」という場面で訳したこの言葉を言うととても不自然になってしまうのです。便利で合理的でなおかつ外国語には訳せない言葉なんです。うまく言えませんが。

−「よろしく」の他にどんな言葉がありますか。遠慮はどうですか。

Ehab:アラビア語にもありますよ。そういう状態がありますから。

−じゃ、感じ方が日本人に似ているところがあるということですね。

Ehab:一部はありますね。日本語に「遠慮の塊」という言葉があるじゃないですか。みんなで大皿に盛った食べ物を食べていて最後に残った1つを指しますね。アラビア語にも全く同じ言葉がありますよ。

−そうですか。その最後の一つは誰が食べるんですか。

Ehab:お客さんでしょうかね。

−家族だけだったら、遠慮の塊はないんですね。

Ehab:そうです(笑)。
(続く>>

(2013年3月29日掲載)