女性差別
− 連載エッセー「徒然の森」第34回
by 北嶋 千鶴子

10月の花 今は日本語教師の仕事をしているが、これまでにいくつもの職業に就いた。大学を卒業して最初に勤めたのは製紙会社の管理部だった。仕事は社会保険や給料などに関するすべてで、初めてのことばかりだったから面白かった。

 ある日、電話がかかってきた。課長にと言われたがあいにく外出中だった。「課長は外出中です」と伝えると、誰か男の人にかわってくれと言われた。ショックだった。これが私が経験した初めての男女差別だった。この体験を話すと、就職するまで差別を受けたことがないなんて「それはとても幸運なことなのよ」とか「よっぽど鈍かったんじゃないの」とか言われた。

 そうかなと思いながら振り返ってみても、子どもの頃から女であることが障害になったことはなかった。両親も男だから女だからとは考えない人だった。それどころか弟は高卒だが、私は反対もされずむしろ大学に行くのが自然だという家庭環境だった。珍しいことかもしれないが、親戚でも女の子は大学へ、男の子は高校までという家がほとんどだった。高校は都立のいわゆる旧女子校で、女子3に対して男子1の割合しかいなかったからだろうか、女性差別と感じるような経験はなかった。元気で優秀な女性たちに囲まれていたのだ。

 さすがに大学は男性が多かったが、文学部だったせいか露骨な女性差別は受けなかった。もし差別的なことを言ったら、恥ずかしくていられなかっただろう。もちろん私も社会には差別があるということは知っていたが、直面したことがなかったのでわからなかったのだ。

 入社してからも仕事を任されて充実した生活を送っていた。社内では仕事ができると認められていたので差別を感じなかった。電話の件で初めて「これが世の中なんだ」と差別の存在が身近になった。その後同じ大卒の男性と初任給(当時2万5千円)が2千円も違うことや女性には昇任の道がないことなど多くの差別に突き当たった。

 私は当時の多くの差別に憤った女性と同じ道を進んだ。認められるように頑張ったのだ。私は若かったから仕事に関する資格をとることにした。大学時代劣等生だった私が初めて夢中になって勉強した。
  差別を受けたことが今の私を作っている。
(October 15, 2005)