昨年2月1日(金)(節分の行事)の出来事…。
午前10時前に保育園の園長より電話が入った。
「行事中、息子さんが怪我をした。他の子とトラブルがあって、相手の子が息子さんの目を爪で引っ掻いたので右の目より血が出ています。でも、息子さんは痛がっていませんでしたし、本人は餅つきがしたいと言ってますが…」
私は保育園の園長が何を言いたいのか、一瞬分からなかった。目に傷がついたならば、すぐ病院につれて行くのが筋だろう。私は当然のことながら「早速病院に連れて行ってください」と答えた。
もちろん、私も直ちに病院に向かった。病院の医者は「不幸の中での幸いです。爪の傷は眼球の白いところと中の皮膚だけでした。よかったですね」と診断した。保育園の担任の先生が処方箋と薬を受け取り、息子は保育園へ再び戻っていった。私は会社に戻った。
夕方、6時半に子どもの迎えに行くと、保育園の担任先生は「お母さん、本日は目薬全部差したのでお家では必要ありません」と告げた。私は一瞬、担任先生が何を言っているか理解できず、「目薬を4回差したのですか。目薬4回というのは、朝、昼、夜、寝る前が普通だと思いますが、もう夜と寝る前の分をさしたのですか?」と言った。処方箋を確認すると、確かにそう書いてあった。先生はすぐに謝ったが、正直なところ、保育園の先生の常識を疑った。
昨年2月21日(木)の出来事…。
午前9時30分保育園より、携帯の着信があった。早速電話を掛ける。園長は、「ヴィン君(息子)がAちゃんにまた顔を引っ掻かかれまして、顔から血が出ています」と告げた。電話がかかってくるぐらいだから、顔の傷がひどいのかなと思い、「病院に連れていくので、迎えに行きます」と伝えた。担任の先生が一緒に来て、病院で受診した。病院で息子は元気がなく、気弱に「ボクお家へ帰れる? お家へ帰りたい。一人で留守番するからお母さんは仕事して」と言ってきた。私は「ごめんね、お母さんはお仕事があるから保育園で留守番していて」と言うしかなかった。
その後、話があるというので保育園に行き、園長と面談した。今日の事件のことをうかがうと、息子がブロックで遊んでいたとき、A君が壊したので、腹が立った息子は「Aちゃん大きくならない〜よ〜だ」とからかったという。怒ったA君は、息子の顔を引っ掻いった。園長は、A君は1年前に自閉症と診断され、いまでもやはり集団生活が難しい面があるといった。そして、自閉症の子だから、いやな感情を忘れられずにいるので、これからも息子に同じことをするかもしれないという。
私はたしかA君のために職員が増員されたと聞いていたので、その先生はどのようにしているのか尋ねたところ、園長は「入園した子どもが増えたので、いまはいない状況です」とこたえた。
私は「子どもは、A君が力が強くて、いつもやられる。ぼく、自分を守ろうとしたけど、できなかった。ごめんね。と言っておりました。私が子どもを守るためはどうすれば良いでしょうか?」と尋ねると、園長からは返答がなかった。
私は「うちの子が小学校入学まであと一年残っています。息子のために、私が環境を変えるしかないでしょうか。保育園では子どもの安全を守れないということでしょうか」と涙ぐんで訴えた。すると、園長はただ「うーん。そうですねえ」と言った。私は仕方なく、「分かりました。息子も自閉症のA君も何の罪もありません。私が色々方法を探してみます。他の保育園とか、幼稚園とかなど」と言うと、園長「はい、わかりました」と言っただけだった。
私は午後の仕事を休み、子どもを家に連れて帰り、保育園を探し始めた。そして、夕方にはA君の母親と園長、担任先生と話し合う機会を持つようにした。今まで何度も子どもがA君に引っ掻かかれ、一度に10箇所以上の傷が付いたときも、会うことは無かったが、さすがにこれ(引っ掻き傷)が1年以上続き、一度は面談をしたほうがよいかと思った。夕方までには、会社と家の間にある保育園を探した。しかし、保育園は順番待ち等があって、すぐ入れる状況ではなかった。幼稚園についても調べたところ、多くの幼稚園がお預かり保育の時間が午後6時だったり(午後6時まで勤務のため、6時半の迎えの時間)、夏休みや冬休みなどがあったりして、仕事をしている私にとっては厳しく、入園申し込みは 困難であることが分かった。
夕方になった。私は、A君のお母さんや園長先生などと約束した時間より10分速く保育園に着いた。しかし、保育園に入ると園長とA君のお母さんは先に話しをしていて、変な空気が流れていた。ちょっと、おかしいなと思いながら、A君のお母様と園長と担任の先生との面談を持った。
A君のお母様は「うちのAがまた顔を引っ掻いたみたいで、申し訳ありませんでした」と言った(なぜか、私は相手が本当に済まないと思っているように見えない挨拶に感じ取れた)。またA君のお母さんは「最近は、顔を引っ掻くことは、なかったですよね」と言い、続いて「私がみてヴィン君は言うことも達者だし、一方的にやられることはないと思います」と言ってきた(この言葉は、私にはA君のお母さんが何を言いたいのか理解できなかった。今までA君のお母さんと話をしたことがないので、何の話かさっぱり理解ができない状況だった)。そして、A君のお母さんはさらに言ってきた「うちの子どもは自分のオモチャを壊されたり、言葉に弱いからいやな言葉を言われたりすることが苦手です。ヴィン君はちょっとしつこいところがあるので、うちの子がいやがるのでは」と言ってきた。私は悔しかったが、ここで事を荒立てても仕方がないのでひたすら我慢した。
すると、保育園の園長はいきなり「ヴィンは保育園では、確かに人が嫌がる言葉、乱暴な言葉、腹が立つ言葉などを使ってます」と言い始めた。
「数日前も先生がお茶をあげたら、そのまま飲んでも良いのに、皆の前に持ってきて、お茶飲むよと言ってました」と我が子を非難しつづけた。
私は、「今日は、我が子の悪い所の話を聴くため、来たのではなく、今後保育園生活を安全にするため、良い対策(方法)を探りたいと思って、皆様と話し合いたくてきたのです。しかも、私が他の施設を探してみるのでその間だけ安全にしてもらいたいと言っているのです」と自分の感情を堪えながら、必死に訴えた。
言葉に関しては、気になったので、私は「息子の言葉使いや汚い日本語は保育園で全て覚えてます。家では母国語だけを使っております。家で汚い日本語やよくない言い方をするたび、厳しく注意させているが、子どもは保育園の誰々ちゃん、君も使っているといつも言ってます」と言うと、園長は「他の子も確かに汚い、乱暴な言葉を使っているが、ヴィン君は特に腹が立つような言葉使いをしています」と言った。私は日本に来て初めて、いや生まれてはじめて、イジメられる人の気持ちが分かり、何で私がここで我慢しなくてはならないだろうか。今、ここで我慢しないで口論することになったら、子どもに何か起こるかもしれないと頭の中で何度も思い、感情をこらえた。
その後、「本日の目的はその問題ではないのでは。今日私がここに来たのは、うちの子やA君を非難したり、悪いと責めるためではありません」「そこを先生がそんなにいうのならば、私は保育園として今まで、私の子どもの喧嘩の際に先生が直接みていたのか。子どもの様子をどれくらいみたのか。A君のため配置されたという先生はどこにいるのかなど聞きたいことは山々です」「しかし、強いて私は保育園に何も聞いていません。なぜだと思いますか?」「私が、後一年しか残ってない保育園を自ら出ると言っているのです。その間、安全にしてほしいのです。子どもはA君が強くて怖いと言ってます。そのため、何かがしたいと思うのです。一緒に考えて欲しいからです」
「保育園は、子ども達の遊びの様子をただ見るのではなく、よく観てください。一人の保育士でも子ども達の遊びの様子を、常に観察すれば安心できると思います。A君のお母さんにも爪きりお願いします」と訴え、「ありがとうございました。よろしくお願いします」と述べた。
最後に、園長先生が玄関まで見送りしていたので、私は「園長先生、何で私だけが一年しか残ってないこの保育園を辞めさせなければならないのでしょうか? 幼稚園の入園も厳しいです。夏休み、冬休みがあって仕事を持っている者としては難しいんですよ」と言うと、園長は「そのような時は、仕事は休めないですか?」と答えた。私の仕事を趣味だと思っているとしか思えないような発言だと感じた。
保育園を後にし、家に向う途中、涙が溢れ、前が見えなくなった。身体が振るえ、歩けなく、田んぼのところで、誰もいないところで大声を出して泣いた。自分が何と馬鹿なのか、何で日本でこんな扱いをされるのか、どうして保育園の園長やA君の母さんは一緒になって…。
しばらく、泣いて家に帰った。顔が膨らみ真っ赤になっているため、すぐ顔を洗い、しばらく経って部屋に入った。子どもが「ママ、どうしたの? 誰が泣かした? 僕が悪い子で、先生に怒られた?」と言った。子どもは、昼の顔の傷で自分が悪いと思っているようだった。私は「あなたは、少しも悪くないよ。お母さんはあなたが大好きだし、ずっとあなたの一番の味方よ」といって抱いた。私が胸が非常に痛んでいたが、笑顔で子どもに愛情の言葉を伝えた。(続く)
(January 2009)