外国人の日本体験 Experiences in different cultures
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北嶋希

隣の芝生は青く見える


by 北嶋希(KITAJIMA Nozomu, 日本)

 私はカナダのバンクーバーに留学(College)していましたが、初めのころは昼は語学学校、夜はパブで学校の友人とお酒を飲む毎日でした。1カ月もすると英語もある程度上達し(今考えると、わかったつもりになっていただけのような気もしますが)バンクーバーの町もほとんど見てしまいました。

 あるとき友人から「隣町のビクトリア(州都)に観光に行こう」と誘われ、2泊3日の予定で出かけました。1日目は何事もなく楽しく過ごしましたが、2日目になると所持金が心細くなってきました。仕方がないので、食費を節約して切り抜けることにしました。

 2日目の昼、裏通りを歩いていると、とてもいい感じのイタリアンレストランを見つけました。店は小さかったのですが、昼時で空席はなく、とても活気がありました。待つこと5分、テーブルに移動しました。メニューを見ると、一番安いパスタは「トマトソース」で7ドルです。お金がないので、これを注文しました。隣のテーブルでは、老夫婦がとてもおいしそうにグラタンを食べていましたが、値段が高そうなので、ぼくは残念ながら頼めませんでした。

 トマトソースのパスタがきて、一口食べたところ、頭が混乱しました。イメージしていたのはミートソースのような味だったのですが、本当に「トマトの味」しかしないのです。少しケチったばかりに、昼食は悲惨なことになってしまいました。でも、私は悔しかったので、せめておいしそうに食べてやろうと思い、パスタに胡椒とタバスコを大量に加え、おいしくもないのにおいしそうに食べました。

 すると、グラタンを食べていた隣の老夫婦が、思いがけない行動に出ました。彼らは店員を呼び、おいしそうなグラタンを下げて、その代わり私のパスタを指差して「同じものを頼む」と言ったのです。

 例のトマトソースのパスタが老夫婦の元へ届き、一口食べたときに案の定「えっ?」という顔で私の方を見ています。私は気づきましたが、あえて胡椒とタバスコをかけながら食べ続けました。すると、その老夫婦は、私がかけている胡椒とタバスコを真似してかけ始めたのです。

 多少の味の変化はあるものの、そんなことをしてもやはりおいしいはずはありません。老夫婦は「なんでこんなものをおいしそうに食べているのだ」 といわんばかりに、不可解な表情で私を見ていました。私は半ば「悪いことをしたなぁ」という気持ちで、食べ終わるとそそくさと店を出ました。

 「隣の芝生は青く見える」といいますが、あまりおいしくないものでも、おいしそうに食べたら、周りの人には本当においしいものを食べているようにみえるものなんですね。とても貴重な体験でした。