外国人の日本体験 Experiences in different cultures
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Branden

日本vs朝鮮戦を応援する
−W杯サッカーアジア最終予選


by クォン・ヨンフン(在日韓国)

2005年2月9日、ワールドカップ、アジア最終予選、日本vs朝鮮の試合を埼玉スタジアムで観戦した。
私は日本生まれの在日韓国人3世だ。
今日は朝鮮サポーターとしての観戦だ。
連れの彼女はニュージーランド人で本当は日本を応援したい。
しかし手配した席が朝鮮サポーター側だったので今回は朝鮮を応援してもらう。

最寄りの駅に到着したのはキックオフの15分前だった。
遅刻してしまった。
バスやタクシーに乗り込む日本サポーター達で駅前はごった返していたが我々の送迎バスはガラガラだ。
スタジアムへ到着したバスから降りてひたすら走った。
光り輝くスタジアムの外側へは大きな歓声がもれている。
係員の誘導に従ってスタジアムのゲートにさしかかった。
特別フェンスがあるとの情報だったので興味があったがもうすぐキックオフなので悠長にチェックしている暇はない。
ゲートでは今まで見たことのない金属探知器で全身をチェックされて危険物等を持っていないか調べられた。
総観戦客は約5万7、8千人でその中で朝鮮のサポーターは5千人。
試合開始直後、ようやく席に着いた。
開始早々、日本が先制点を決めた。
我々、朝鮮サポーターのため息はスタジアムの大歓声にすっかり飲み込まれている。

隣に子連れのカップルが観戦していた。
カップルは私と同年代の在日のように感じる。
しかし試合観戦に夢中でそれどころではない。
席にあった朝鮮応援グッズを手に大きな声で応援した。
朝鮮高校の吹奏楽部が応援曲を時折演奏しているが長く続かない。
吹奏楽部の部員も観戦に夢中になっているのだろうか。
隣の子供も一緒に応援した。
すると子供のお父さんから話しかけられた。
「お前、○○○○(私の名前)だろ?」
驚いた。 同級生だった。
約17年ぶりの再会なので顔を思い出せないのも無理はないが先に気づけなかったので少し気まずい思いをした。
観戦しながら高校卒業後の様子や今の状況を伝えあった。
他にも誰か知り合いがいないか辺りを見回した。
他に知り合いはいないようだ。
皆、夢中で応援している。

緩衝地帯を挟んで左右に日本サポーター達が応援してる。
私の席はゴールとコーナーの間だ。
日本のサポーターで一番熱いのは向こうサイドのゴール裏だ。
ここまで声援が聞こえてくる。
皆で飛び跳ねているので青い絨毯が動いているように見える。
向こうからはこちらは赤い絨毯が動いているように見えるのだろうか。
あっという間にハーフタイムだ。
皆がトイレや休憩をしに席を立っている。
後半戦が始まる直前、朝鮮の大きな国旗が応援席の頭上を覆った。
その国旗はこちらには届かなかった。
反対側から見られないのが残念だ。
後半戦が始まった。
朝鮮が同点ゴールを決めた。
我々は立ち上がって狂喜した。
すぐ巨大スクリーンにゴールシーンの録画が映し出された。
それを見て更に盛り上がった。
1対1のドローで終わるかと思われたがロスタイム中に日本が追加点を決めた。
試合終了。
負けた。
しかし国際サッカーのランキングでかなりの差がある日本を相手によくここまで善戦した。
励まそうと我々サポーター側に挨拶に来た朝鮮選手に皆で大きな拍手を送った。

駅までの帰り道、朝鮮サポーターと日本サポーターの順路が違っていたが、私たちは人が多い日本サポーター側の順路を選んで歩いた。
途中、露天でサッカー・ユニフォームなどが売られている。
おにぎりを買って食べながら歩いた。
日本サポーター達が歌う応援歌がちらほら聞こえてくる。
サポーター同士が試合について熱く語りながら歩く姿も見える。
皆、勝利できてうれしいようだ。
電車を乗り継ぐたびに青いシャツを着た日本サポーターの姿が消えていく。
連れの彼女は同点ゴールが気に入ったようで同級生カップルからもらった朝鮮国旗のシールを頬に貼っている。
私は帰り道に落ちていた赤い帽子をかぶっている。
電車内のサラリーマン風の人々が私たちをチラチラ見ている。

目的の駅に降りると青いシャツを着た日本人サポーターが近寄ってきた。
「朝鮮のサポーターですよね? 私はサッカー日本代表を海外まで行って応援するんです。 今日はいい試合でした。 是非一緒にドイツへ行きましょう!」
同じ組から2チーム、W杯へ出場できることを思い出した。
朝鮮と日本、一緒にドイツでプレーできたらどんなに楽しいだろう。

昨今の拉致問題と核保有疑惑問題など心痛ましい問題が朝鮮、日本の間にはある。
引き続き対話を続けて少しずつ解決できればよいと考えている。
政治以外でもスポーツ、文化など様々な形で交流を続ければ時間はかかるが仲良くなっていくと考えている。
朝鮮代表のサッカー選手達が悪いわけではない。
朝鮮の一般市民が悪いわけでもない。
国家を悪用するごく一部の悪いリーダー達が悪いのだ。
そのことを理解し日本や世界のメディアがどんなに煽ろうとも朝鮮から来たサッカー選手達を快く迎えてくれて、思う存分サッカーをさせてくれた日本サポーターの皆さんに心から感謝する。
ありがとう。