− ビジネスではどうでしたか。何か日本と違うなあと思ったことはありますか。
佐々木:仕事の場合、最初は簡単なんです。やろうやろうとどんどん進むんです。でもいざとなったら難しいとか金払いが悪いんです。
− 金払いですか。
佐々木:ええ、金払いが悪いのは一つには支払いを遅らせることができるのが経理担当の能力と見られているせいかもしれません。
− へえ。
佐々木:日本の会社では期日に払うのは当たり前なんですが、中国では大きな会社でもなかなか払わないんです。
ことわざ講演会の写真(佐々木氏提供)
−
大きいところなら手形を振り出すんじゃないですか。手形だったら期日に払わなかったら倒産しちゃうでしょう。
佐々木:そうなんですが、私のところは現金取引だったんで、何のかんのと言ってなかなか払ってくれなかったんです。来週と言われて行くじゃないですか。するともうちょっと待ってくださいと言われてどんどん延びちゃうんです。支払いを遅らせたら経理の能力が高いと評価されるんですよ。
− 変ですね。他にどんな人が能力が高いって言われるんですか。
佐々木:お酒が飲める人。
− 嘘。
佐々木:本当ですよ。お酒が強いのは一つの能力って見られていましたね。
− へえ。じゃ、飲めない人は大変ですね。
佐々木:でも偉い人の場合はその人の側にお酒を飲む担当者がいるんですよ。代わりに飲んでくれるんです。
− それって仕事ですか。
佐々木:ええ。お酒が飲めるだけでどんどん出世しちゃう人もいますよ。
− そうですか。
佐々木:出張が多かったんですが、まず会うと宴会ですね。日本だったらまず契約のことなど話が終わってから宴会なんですが、まず食事に行っちゃうんです。
− 後で契約にならなくても構わないんですか。
佐々木:そうです。だから仕事がレストランに行っただけということもありました。酒の席で決めたことを袖にするということはなかったですから助かりました。
− 性格的にどうなんでしょうか。
佐々木:中国は広いですから地域によってすごく違うと思いますね。
−
まあ、どこの国にもいい人もいれば悪い人もいますからね。でも特別に日本人に比べて違うことがありましたか。
佐々木:中国ってこうだというようなステレオタイプのことがありましたね。
− ええ。
佐々木:僕、靴下とパンツを一緒に洗っていたら、何でそんな汚いことをするの。中国人だったら絶対にやらないと言われたんです。
−
じゃ、中国時のほうが清潔じゃないですか。
佐々木:そう。またシャワーを浴びなくてもよく足を洗うと思います。またタオルが違うんです。足を拭くのは足ふき用のタオルなんですよ。
− 清潔ですね。
佐々木:だから日本の尺度と違って、彼らなりの清潔感があるんです。
−
そうですね。でも痰を吐いたり。
佐々木:そうですね。それにチリ紙が高いですから手鼻したり。
−
手鼻? 手鼻したらその手をどこで拭くんですか。汚いじゃないですか。
佐々木:飛ばすんですよ。チリ紙が高いですから、鼻を抑えてピッと飛ばすんですよ。とても上手で感心して見ていました。
−
本当に? じゃ、拭かなくていいですね。
佐々木:自分は汚くならないですね。道が汚くなりますが土に帰るんだから合理的な考えですよね。
− そうですが、自分はきれいだけど他はどうでもいいみたいですね。
佐々木:まあ、そうこところはありますね。超高級マンションへ行っても階段など共有の所は凄く汚なかったです。
−
でも管理人とかいるんでしょう? いればきれいなはずですよね。今はきれいになっているかもしれませんよ。
佐々木:そうですね、当時は本当に酷かったです。共有の場所に落書きなんかもあったし。
−
鍵はどうでしたか。よくたくさん鍵を掛けているのを見ましたが。
佐々木:田舎の方に行くと日本も同じですが、鍵なんか掛けないところもありますから。私も掛けなかったですね。掛けるところはたまたま治安が良くない場所でしょうね。
− そうですか。中国は広いですからね。そのころ車はどうでしたか。
佐々木:結構走っていました。日本では高いから滅多にタクシーに乗らないんですが、ほとんど毎日タクシーに乗っていました。会社が車を回してくれましたから、それもよく利用しましたので、他の先生方には「あいつ何やっているんだ」と思われていたようです。
− 授業をしない時は自由だったんですか。
佐々木:ええ、それに最初のころはたくさん授業を持っていましたが、そのころは週2日6時間ぐらいしか授業をしていませんでした。
−
それで同じお給料だったんですか。
佐々木:そうです。
−
そういうところ、向こうはあまり気にしないんですね。鷹揚ですよね。
佐々木:そうですね。楽しい大学生活でした。
−
その時中国語を習ったんですよね。
佐々木:でもなかなか上手にならなくて。
− どこで習ったんですか。
佐々木:学生にアルバイトとして習いましたがなかなか長続きしませんでした。でも生活するなかでちょっとずつ話せるようになってきました。大学の上の人から「中国語が上手になってきたのでそろそろ辞めてもらおうかな」と言われました。中国語が上手になってほしくなかったみたいですよ。中国語が上手になるとつい授業中に使いたくなっちゃうから。
− そうですね。他に違うことがありましたか。トイレとか。
佐々木:トイレは地方に行くとドアがなかったり、私の大学はありましたが、ない大学もあるそうです。田舎で丸見えのトイレでそばを通ったら紙くださいと言われたこともありますよ。
− 砂漠の方に行くと穴だけのトイレもありますから。
佐々木:それに今でも漬物樽のような運べるトイレもあります。蓋を開けてするんですが開ける勇気がなくて我慢しちゃうこともありました。
−
そうなんですね。だからどこの日本語学校だったか忘れましたが学生が寮でバケツにしてお部屋に置いておいて他の学生からすごく文句が来たことがありました。そういう地域から来た学生だったんですね。今わかりました。
佐々木:そういう習慣の所だったんでしょうね。ドアがないところは結構ありますね。
銭湯とか行くと……。
−
銭湯があるんですか。
佐々木:やはり日本文化が入ってきているんです。今、向こうでサウナとか銭湯とかあるんですが、韓国経由で入ってきているんです。そこにトイレがあるんですが、ドアがないのでお風呂に入っている人と目が合わせながらしなくちゃいけないんです。最初は緊張してできなかったんですが段々慣れてきちゃいました。
− 男の人は立ってするから大丈夫では?
佐々木:大きい方ですよ。
− そうですか。
佐々木:銭湯は日本と違ってスリッパを履くんですよ。
− お風呂の中もですか?
佐々木:湯舟では脱ぎますが。
− 考えられませんね。
佐々木:よく行きましたよ。温泉にも。結構温泉があるんですよ。
−
日本に来て温泉に入りたいって聞くからあまり温泉がないのかと思っていました。
佐々木:ありますが、日本の温泉のような風情がないんです。
−脱衣所も同じですか。ああ、でもロッカーに鍵がかかるんでしょうね。
佐々木:そうですね。鍵がかからないところはないですね。
− 寮はどうでしたか。
佐々木:先生たちの部屋はトイレもバスタブもついていました。学生は共用のトイレとシャワーでしたね。
− 何か盗まれたということもあったんです。
佐々木:ときどき学生が〇〇が盗まれたなんて言っていましたね。
−
まあ、盗まれた方が悪いって言われることもありますよね。世界では。犯罪を助長するようなことをしてと言われて。
佐々木:私もニューヨークで財布をすられたときに、警官にこんなところに入れて置くなんてお前が悪いと怒られてしまいました。
−
そうですか。中国では大丈夫でしたか。
佐々木:大丈夫でした。友だちでしょっちゅう危ない目に合っている人もいましたが、なぜなんでしょうね。
− 中国でですか。
佐々木:いいえ、違います。中国ではそんな話は聞きませんでした。
− 田舎だったからですか。
佐々木:田舎っていったって300万ぐらい、横浜と同じぐらいの人がいるんですよ。
− そんなに。
佐々木:でも中国では小都市です。
− 全然見なかったんですか。
佐々木:あったんでしょうが、身近ではなかったですね。喧嘩とかは見ましたけど。
−
よくお年寄りが縁台で碁などを打っているのを見ていいなあと思ったんですが。
佐々木:そんな田舎じゃありませんよ。ただ公園に行くとお年寄りが朝は太極拳したりして一日中いるようなところもよく見ましたね。やることがないんでしょうかねえ。
− 日本人より働かないんでしょうか。
佐々木:年取ったらあまり働かないでしょうね。孫の面倒はよくみていますが。
− 公園で子どもが遊んでいないと聞いたことがあります。
佐々木:そういえばそうですね。公園の遊具ってたいていおじいさんおばあさんの使う物です。健康のための鉄棒のような物とか。公園のイメージが子どもが来るところというのではなくお年寄りが集まるところですね。子供が遊んでいるところ見ませんでしたね。特に子供だけで遊んでいることはありませんね。そんなことしたら連れていかれちゃいます。
− 売られちゃいますね。いい印象だったことは?
佐々木:どこの国に行っても私は……。
−
まあ、先生はそうでしょうね。それに先生がいらっしゃった時は日中の関係が良い時でしたよね。
佐々木:ええ、それに四川大地震の時の日本の救援隊の活躍があって随分印象がよくなったんです。その時は鎮魂のために学内でろうそくを灯したりした覚えがあります。
− 楽しかった思い出でいっぱいですね。今度は韓国やインドネシアでの経験をお聞きしたいです。よろしくお願いいたします。
(2018年9月12日掲載)