日本体験 外国体験 Experiences in different cultures
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千羽鶴が叶えてくれた願い


 川口興有 (管理学博士 北京師範大学)


1. 緒言

 日本語学習者の数は世界的に増加する趨勢にあり,そのニーズも観光から留学,ビジネス,日本人配偶者との日本での生活など学習目的は千差万別である。日本語教育では従来の『みんなの日本語』に加え,日本語能力試験や日本留学生試験等の公的資格の取得,さらには理系や医療系等の専門日本語の講義がなされるようになってきた。

 こうした状況を踏まえ,小生は北京師範大学管理学院で人材管理論を専攻し,日中両国での日本語教師や各種法律手続きに関する経験を今も積み重ねている。この小論では今後の日本語教育の在り方について,日中両国での経験を踏まえ展開する。


2.中国での日本語教師経験から

 小生は2008年から北京師範大学,首都師範大学,国際関係学院の中国屈指の大学で教鞭を執る機会に恵まれた。またそれ以前の2002年から,山東省等でも各地で企業人対象の実践日本語を教え,この過程で異文化コミュニケーションや語学教授法の研鑽の必要性から,カナダのロイヤルローズ大学院でMBAコースを受講した。この過程で日本人の日本語教師が中国各地の大学に赴いている現状を垣間見たが,その多くがテキストを使用した教育に終始し,中国の学部生や大学院生の指導教官になる例は皆無に等しい状況に勿体なさを感じている。小生は幸いにも修士学生の日中対照言語研究,翻訳理論,日本文学,アニメに基づく社会心理学,日本経済発展の原動力を探る計量経済学等のテーマで指導し,約15年間の日本語教師経験が日本帰国後も糧になっている。

 

川口興有さん

中央が川口興有さん

 現在でもその教え子たちとの交流は続き,学位取得や起業,日本を含む海外留学,中国政府の職員になる者も輩出している。日本にいる小生をわざわざ訪ねる者も少なくない。中国での日本語教師経験から,学生たちは即戦力や専門知識の取得を目指し,日本企業の強さに関心が傾くことから教える側もビジネス現場や専門職種の経験者が求められていることを肌で実感している。


3.日本での日本語教師経験から

 日本でも日本語学校で教師経験を有し,日本の公的機関が敷く国際交流基金や日本語教育420時間コースに準拠した内容を学び,さらには日本の大学に所属する日本語学科や中国関係者との情報交換を積極的に行い,実践的な日本語教育に奔走している。また,来日した留学生を見て,勉強に精進する学生がいる一方で,アルバイトに忙殺される学生も散見されることから,日本語教育の授業内容をいかにしたら充実させられるかが畢生のテーマになった。

 現在、小生は日本文化を教え,科学技術や医療福祉といった日本社会の現状を伝えるように努力している。ただ,一番の懸念は向学心に燃える留学生が日本語学校に来なくなるケースである。小生は日本でこうした実態を目の当たりにし,教師とのコミュニケーション不足と学生側ニーズとのミスマッチが大きいものと痛感した。日本語学校には学生の関心事項に熟知した人がいるとは限らないので留学生が理系や医療福祉系,芸術系に進学したい場合,小生は日中双方の人脈を活用し,日本でも中国でも個人的に語学教育に当たっている。農学やリハビリ,日本政治史,計量経済学,言語学等を考慮して,学校内外の人脈の協力を得てニーズに対応している。この過程で,小生も視野が広がる醍醐味を味わっている。


4.一生涯勉強に励む日本語教師を目指して

今後の日本語教師には,日本語教育420時間だけではなく,何らかの専門分野を有し,それ等を伝える熱意が必要だと考える。また,小生は教師側の中国語習得希望者の中国滞在に係る諸手続きやカウンターパートの役割を担うことが可能である。実際に日中両国の人たちを互いの国へ派遣する等に尽力してきた。その際日本語教育は一生涯のテーマであることを日中双方から教えられた。日本語教育を極める足掛かりとして日本語学校で教師や事務長といった教育部門や管理部門を歴任してきたが,一層の精進と幅広いネットワーク構築を心がけることを跋文の締め括りとする。
(2018年2月19日掲載)