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イギリスで保存修復を学ぶ(上)


 後藤里架 (日本)

後藤里架さん
ロンドン小旅行:バッキンガム宮殿前にて

−後藤さんはイギリスに留学していたそうですね。

後藤:ええ、20歳のときからです。

−どうしてイギリスだったんですか。

後藤:古美術や美術品の修復の方面に進みたかったんですが、私が行きたかった日本の大学に母が反対して相談した結果留学することにしました。

−珍しいジャンルですね。昔から美術に関心があったんですか。

後藤:絵を見るのは好きでした。特に知識があったわけではありませんが、「ダビンチコード」が流行ったときで急にそちらに進みたくなったんです。美術のほうはデッサンもやったことがなかったんですが、イギリスのリンカン大学で勉強することにしました。

−大学で4年間勉強したんですか。

後藤:大学で3年、大学院で2年です。イギリスの大学は3年制で、教養課程はなくて、いきなり専門から入るんです。

−それは大変でしたね。

後藤:だから日本の高校を卒業しただけでは入れないんです。入学前にファウンデーションコースを取らなければなりません。大学や語学学校でそのコースを取ります。教養科目とは違ってパソコンの使い方とか語学は入学できる基準までそこで勉強します。どこでコースを取ったらよいかわからなかったので留学を斡旋するヒューマン国際大学機構で探して、ヒューマンのコースで1年間ぐらい勉強してから、マンチェスターの語学学校に行きました。

−どんなところでしたか。

後藤:移民が大勢いました。西アジアの人たちでしょうか。

−困ったことはありましたか。

後藤:地域の銀行で口座を開設するときに担当者がインドなまりかマンチェスターなまりかわかりませんが、聞き取れなくて何度も聞き返しました。方言といえばヨークとかダービーのほうの人の発音もちょっと違いましたし。

−日本人はイギリスと言いますが、スコットランドやウェールズ、北アイルランドなどもありますからなまりもいろいろですね。

後藤:そうですね。それに特にスコットランドの人にイギリス人と言わないようにと大学で留学生を対象に開いている英語の講習に参加したときにときに言われました。方言を聞いてみようという授業のときにそういう注意がありました。

−そうですね。私もイギリス人と言って怒られた経験があります。クラスはどうでしたか。

後藤:学生はみんな留学生でした。中国人が多かったですね。3分の1か半分ぐらいは中国人でした。香港の人が多かった気がします。

−どのくらいそこで勉強したんですか。

後藤:9ヶ月です。途中からアート系の授業もありました。マンチェスターメトロポリタン大学でデッサンはしなかったんですが、作品を作ったりしました。その間に大学の面接を受けました。

−面接はどうでしたか。

後藤:イギリスの大学は海外の人から授業料をたくさんもらえるので留学生は基本的には歓迎なんです。当時、国内の人は3000ポンドぐらい、EUや元植民地の人が6000ポンドぐらい、私は1万ポンドぐらい払っていました。

−日本円では?

後藤:そのときのレートで130~140万円ぐらい払っていました。

−そんなに? 生活費もいるし大変だったでしょう。

後藤:日本の学生支援機構で奨学金を借りました。

−それを返すのも大変ですね。給料が高い仕事の人はいいけれど……大学に留学生は大勢いたんですか。

後藤:私はあまり留学生には会いませんでした。日本人は私と同じ学部に1人いたぐらいだったと思います。

−英語を学ぶためにはいいですね。中国人は多かったですか。

後藤:特にビジネス関係の学科には多かったようです。

−クラスに何人ぐらい学生がいましたか。

後藤:一番小さくて15~20人ぐらいでした。

−クラスで飲み会とかありましたか。

後藤:あまりなかったです。大学院のときはみんなでパブに行ったりしましたけど。

−外国人もいましたか。

後藤:日本人が1人と多分ブラジル人がいました。

−大学で何が一番楽しかったですか。

後藤:授業が一番楽しかったです。

−随分真面目でしたね。でも授業は教授が一方的にしゃべるわけではないので楽しいのは当たり前かも知れませんね。

後藤:勿論一方通行の授業もありましたけど。

−みんな真面目でしたか。

後藤:真面目でしたね。シェアハウスしていたイギリス人は真面目でした。ベトナム人、アイルランド人、イギリス人と私の4人で暮らしていたこともありましたが彼らもやっぱり真面目でしたね。

−イギリス人ってどんな感じでしたか。

後藤:そういえば驚いたことが1つあって、洗剤でお皿を洗うじゃないですか。泡のまま置いておくんです。

−オーストラリアでもそんなことがあるみたいですよ。紙で拭かないのですか。

後藤:拭くときもありますがほとんどそのまま置いておきます。共有ですから、使う前に鍋もお皿も濯いでから使っていました。泡を流さないことについてはたまたまパーティの食器洗いをしていたときにフランス人と「イギリス人って泡、流さないよね。」という話になって、フランス人も驚いていたことがわかりました。

−日本のレストランはありましたか。

後藤:「わがまま」というチェーンのレストランが1軒ありました。高くはなかったですが私は行かなかったです。たくさんある中華料理やインド料理の店よりはちょっと高かったです。

−どうして行かなかったんですか。

後藤:チェーン店なので多分経営者は中国人だろうと思ったし、日本料理店らしき看板が置いてなかったんです。勿論寿司とかはあったんですが、首を傾げたくなるようなメニューなんです。ラーメンも日本式なのか中国式なのかわからないし、日本独自の例えば味噌ラーメンとかじゃないんです。

−ラーメンといえば高くてびっくりしましたね。ラーメンって安い食べ物だというイメージなのにロンドンで1500円もしたのには驚きました。

後藤:そうですね。寿司もソースがかかっていたりすることもあります。

−日本人には食べられないですね。経営者が日本人じゃないことが多いせいかもしれませんね。後藤さんが住んでいた町にはその店しかなかったんですね。

後藤:そうだと思います。ロンドンとは違います。日本でイギリスってこうなんだと紹介されるのはロンドンばかりです。日本人旅行者が訪れるのもロンドン、湖水地方、コッツウォルズが多いようですから。ほかにもいいところがいっぱいあるのになあと思います。

−リンカンの町の雰囲気はコッツウォルズに似ているんですか。

後藤:そうですね……リンカンは大聖堂とマグナカルタ、それにクリスマスマーケットで有名ですね。あの雰囲気は外国でなければ味合えないですね。

−そうですね。生活していて違うなあと思ったことはありましたか。

後藤:田舎でしたね。大学で成り立っているようなところでしたから、普段は大勢の人がいるんですが、クリスマスなどでみんなが帰省しちゃうとシーンとしてしまいます。

−英語で困ったことはないんですか。

後藤:簡単な言い方にして話していましたから。

−聞くのはどうでしたか。

後藤:わからないときは易しく言ってと頼みますから大丈夫です。

−ほかに困ったことがありましたか?

後藤:最初に行ったときにサマータイムを知りませんでした。10月の最後の日曜日に1時間遅れて反対に3月の最後に進むんです。9月に行ったので知らなくて……でも1時間あまっただけなのでよかったですが。

−リンカン大学ではどんなことを勉強したんですか。

後藤:コンサベーションレストレーションと言う学科で1年生のときは簡単な基礎的なことを習いました。クリーニングとか梱包の仕方などです。それから植木鉢のような物を買ってきて割ってそれを修復したりしました。その一部を抜いてできた穴を埋めたりしました。

−面白そうですね。ところでイギリスの大学院のシステムはどうでしたか。2年行っていたんですね。

後藤:ええ、大学院は研究の内容によって1年ぐらい猶予があるんです。9月から4月まで教えてもらって、それから翌年の6月までを自分の論文の作成に当てます。最初の提出日の9月に論文を出す人は1割もいないです。1月に出す人が多いですね。私は研究に時間がかかってしまったので最終の締め切りに提出しました。

−論文を先生に読んでもらうんですね。

後藤:普段の論文もそうですが教授の後で、External Examinerという人に読んでもらいます。

−External Examinerって何ですか。

後藤:論文を審査する外部の人です。

−外部の人に読んでもらうんですか。

後藤:イギリスの大学は大体そうです。よその大学などの機関、その道の専門家がなれるようです。同じ大学の出身者でもいいそうですが、優秀かつ卒業して何年以上などいろいろ大学によって規定があるそうです。

−厳しいんですね。

後藤:ええ、教授(Internal Examiner) がつけた点数が適切かどうかをチェックするのですから。External Examinerというのは大学の基準を保つためのシステムだと思います。

−大学の基準?

後藤:大学によって基準がばらばらだと困りますから。

−それは美術だけですか。

後藤:いいえ、全てだと思います。

−そうですか。じゃ、日本のようにAをとっても他の大学のBに近いというようなことはないんですね。

後藤:そうです。全てExternal Examinerがチェックしますから。

−なるほどそれで教育レベルを保っているんですね。じゃあ、大学が違っていても80点取ったらどこの大学でもその能力があると認められるんですね。いいですね。

後藤:一応どこの大学は何が有名とかはあるんですけど、教えている先生の違いでレベル的にはそれほど変わらないと思います。

−それはすごいですね。大学を卒業している人はそれなりのレベルにあるということですね。あんまり大学に行かないのでしょうか。

後藤:ニュースで行かない人が増えていると聞きました。金銭的な問題もあるらしいです。

−それは日本も同じですね。

後藤:私が1年か2年のときに国内の学生の授業料が上がるというのでデモがあったんです。結局上がったので行く人がもっと減っているみたいでした。

−そうですか。
(続く)
(2015年11月29日掲載)