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迷信


 ワッサラー・ディ・シルワ (スリランカ)

ランディカ・ジャヤミニ
ワッサラー・ディ・シルワさん

 日本とスリランカには昔から伝わってきた迷信がたくさんある。昔の人々がなんらかの理由で信じてきた迷信は科学時代になった現在にも残っている。迷信はなぜ使われてきたのだろうか。もともと子どものしつけ教育方法として使われていたと考えられる。インタビューの対象者であるTさんの話によると、昔と比べて迷信を信じている人々は少なくなってきている。理由は科学時代になっている現在ではテレビやインターネットからたくさんの情報が入ってきているからである。本稿では日本の迷信を紹介し、それに関連性があるスリランカの迷信について述べたいと思う。迷信を通して、両国の文化の共通点を明らかにすることが二次的な目的である。

 日本とスリランカにはどんな迷信があるのだろうか。最も多いのは死に関する迷信だと言える。日本では、「夜、爪を切ると、親の死に目に会えない。」と言われている。これについて様々な説がある。日本の昔の家では夜の明かりは火だった。そして、昔は爪切りがなかったため、爪切りには刃物を使っていたようだ。細かい作業ができるほど火の明かりは明るくないので、夜に爪を切ると怪我をし、最悪の場合、命がなくなる危険性もあった。上記の迷信はそこから始まったというのが一つの説である。そして、夜は「世」と爪は「詰める」の意味にあたり、世を縮めるつまり一生を縮めるという意味を表す。親よりも先に子どもが死んでしまうことは一番親不幸である。そこから上記の迷信が生まれたとも考えられる。また夜に爪を切ると爪の行方が見えなくなり、後でそれを踏むと痛いということもある。説はどうであれ、夜に爪を切ると何もいいことがないので、夜に爪を切ってはいけないと言われてきた。

 「霊柩車が通る時は親指を隠しなさい。」という迷信もある。日本では人の活気が出るのは指先からだと信じられている。その活気が、霊柩車の死者に吸い取られてしまい、親より先に死ぬことになると言われている。すると、親の死に目に会えなくなるらしい。他にも「お葬式の前を通る時、関係者以外の人は親指を隠しなさい。」とか「お葬式の場合は家を出た出口から入ってはいけない。」とか「焼き場から帰って来る時、同じ道を通ってはいけない。」などの迷信もある。それは、同じ道を通ると死者のたましいが一緒に戻ってきてしまうと信じているからかもしれない。

 スリランカにも、「夜に猫が集まってけんかすると死の知らせが来る」とか「蛍が家の中に入ると死の知らせが来る」とか「夢で歯を抜くのを見ると知り合いがなくなる」とか「足のうらがかゆくなると親戚がなくなる」などの死に関する迷信がある。なぜ日本とスリランカでは、死に関する迷信が多いのだろうか。第一の理由は人間は「死」などの未知のものへの不安を持ち、様々なものを信じるようになっているからだと言える。そして、幼い頃から迷信の話が頭の中に入っているからだと思われる。

 日本とスリランカでは共通している迷信もある。その中で、由来がはっきりとしないものが多くあり、気分的なものから始まったと考えられるものもある。だが、科学的に検証してみるとはっきりとした根拠がある迷信もたくさんある。例えば:日本では「ツバメが低く飛ぶと雨」だと言い、スリランカでは「雨ツバメが鳴きながら飛んでいくと雨が降る」という。空気中の湿度が高くなると、虫は低いところに集まるそうだ。その時にツバメなどの鳥は、この虫を食べるために低いところを飛ぶらしい。すると、ツバメの鳴き声もよく聞こえてくる。そこから昔の人々はツバメと雨の関係があると思ったかもしれない。そして、日本では「ツバメが巣を作る家には幸運が来る」と言い、スリランカでは「雀が巣を作る家には幸運が来る」と言われている。昔、日本もスリランカも農業中心の国だった。ツバメも雀も田の害虫を食べてしまうので、作物がたくさん取れ、家が豊かになる。そこからその迷信が生まれたと推測できる。

 日本では「夜、口笛吹くと蛇が来る」と言われている。同様にスリランカでも「夜、楽器を弾くと蛇が来る」と言われている。昔、日本では人身売買ということがあったそうだ。男性は夜、貧しい家庭の娘を買いに行くとよく口笛を吹き、それはあなたの娘を買いに来たよという印だったらしい。その人買のことを「蛇」と呼んだことに由来し、そこからそういう迷信が生まれたとされている。スリランカのジプシーの人々はよく笛を吹いて蛇を踊らせる。笛を吹くと風が動き始め、所々に隠れている蛇が出てくる。そこからその迷信が生まれたと思われる。                                 
 日本では、「鏡は霊の通り道なので夜は布をかぶせないといけない」と言われている。スリランカでも「使わない時、鏡は布でかぶせなさい」と言われている。昔から日本では鏡はこの世と、この世でない異界を結ぶ扉だと言われている。

 日本ならではの迷信もたくさんある。例として下記の迷信が挙げられる。日本では、「黒い猫と目があったら近いうちに身内に不幸が訪れる。」と言われている。それは黒猫が縁起が悪いものとされているからである。また、「夜くも、親の顔をしていても殺せ。」と言われている。日本では朝くもは縁起のいいものとされ、夜くもは縁起が悪いものとされている。

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 縁起のいいこととして、日本では「お茶の中に茶柱が立っていると、いいことがある。」と言われている。お茶に混じった茶柱が茶碗の中で立つのは、めったに起こらない珍しい出来事なので、縁起がいいことだと信じてきたらしい。ほかに縁起のいいものとして、よく店に招き猫を飾り、選挙の時、党の事務所には必ず「だるま」を置く。なぜそのようなことをするのだろうか。人間は縁起物を置いておくと安心感を感じるからである。

「枕を踏んだら足が腐る。」という迷信もある。これはしつけを教えるために使われてきた迷信だと考えられる。枕は寝るために使うもので、顔を枕につける時もある。この迷信は子どもに枕はきれいに使わなくてはいけないということを教えるために使われてきたと考えられる。そして、「食べた後すぐ横になると牛になる」という迷信も同様な目的で使われてきたと考えられる。なぜなら、食べてすぐ寝るのは健康に悪いからである。

日本では、はっきりとした根拠はないが心理的な理由で信じるようになっている迷信もある。例えば、「手のひらに人という字を3回書いて飲むと緊張感がなくなる。」とか「雷が鳴ったらトオクノクワバラと4回書く。」などがあげられる。さらに、迷信は地方によって変わる場合もある。例えば、日本では「北枕は縁起がいい」という地方や、「西枕が悪い」という地方がある。 

 このような迷信は人々の日常生活に強く根付いているだけではなく、ぞれぞれの国の文化も反映している。
(2015年1月22日掲載)