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日本人の歩んだ漫画の道をたどる


 スパンサー・ピンスィー (タイ)

ランディカ・ジャヤミニ
スパンサー・ピンスィーさん

 私は子供の時から日本の漫画を読み、29歳になっても、いつも漫画を読む。だが、折々親や友達に「子供っぽい」と言われる。40代以上のタイ人は、「漫画は子供のためで、大人になったら読むべきものではない」と思っている。しかし、私は日本に来て以来、あらゆる所で漫画を読む人が見える。子供のみならず、サラリーマンやお年寄りも漫画を読んでいる。

 また、日本では漫画が大人気である。本屋では本棚に並んでいる漫画は数え切れないほどたくさんある。日本の出版社も半分以上は漫画の出版社だそうである。また、タイにはない漫画喫茶や中古漫画を売っているBOOK-OFF もある。それに、ドラえもん博物館やアンパンマン博物館もある。それはタイ人の私は珍しいと思う。

 それに、全国の15歳〜44歳の男女を対象に「漫画に関するアンケート」を行ったgoo リサーチの結果によると、全体の75%が「漫画が好き」だと回答したということである。なぜ日本人が年齢を問わず漫画を読むのか不思議に思ったため、この件について日本人にインタビューすることにした。この度、日本人の友人のAさんにインタビューした。

 大学で勉強しつつ仕事をしているAさんは時間があまりなくても「ONE PIECE」や「忍たま乱太郎」という漫画を読む。また、Aさんの大学生の友達も同僚も「NARUTO」や「BLEACH」などの漫画を読む。Aさんは、漫画を読む大人は子供っぽい人ではなく、子供向け漫画があれば大人向け漫画もあるからであると言った。例えば、「ドラえもん」や「ちびまる子」などの子供向け漫画はファンタジーのストーリーで、金田一少年の事件簿やデスノートなどの大人向け漫画は暴力的なところがあるストーリーである。漫画は様々なストーリーがあるので、子供のものだと言えない。

 Aさんによると、日本人の考えでは、漫画を読むのは恥ずかしいことではなく、だれでも・いつでも・どこでも漫画を読むことができる。そのため、日本では大人が電車や喫茶店で漫画を読むことは珍しいことではない。また、Aさんが好きな「ONE PIECE」は実は子供向けの漫画だが、大人が子供向けの漫画を読んでも大丈夫だと答えた。Aさんの大学生の友達も同僚も「少年ジャンプ」の漫画雑誌を読んでいるそうである。日本人は「自分が好きならどんな漫画を読んでもいい」と考えていることが分かった。

 一方、タイでは40代以上で、漫画を読む人はめったにいないと言える。そのため、漫画についてのことがあまり分からなく、ドラえもんやクレヨンしんちゃんなど非常に有名な漫画だけ知っている。そのため、「漫画ならなんでも子供っぽい、大人は雑誌や小説などを読んだほうがいい」と考えられている。それに、「漫画を読むのは意味がないこと」だと思うタイ人は少なくないと言える。2005年に、あるタイの番組が漫画の影の部分の話を誇張し、放送した後、禁止された漫画があったため、日本の漫画のイメージが悪くなったようである。そのため、「日本の漫画は色っぽいシーンばかりあり、よくないもの」だと勘違いした人もいるようである。

 私の場合、子供の時、漫画がナンセンスだと思う父はあまり私に漫画を読ませなかった。私が漫画を読んだら父はいつも「勉強しなさい」と言ったが、Aさんの場合は「子供の時、漫画を読んでも母は文句を言わなかった」と言った。Aさんによると、漫画を読むのは勉強になるところもあるそうである。私自身も漫画は「面白い」だけではなく、折々漫画から新しい言葉や豆知識などを学ぶこともある。小学生の時、ドラえもんを読んで、アリの巣のことが分かり、虫に興味があるようになった。また、最近では教育用漫画もある。つまり、漫画は知識を広めることができ、役に立つものだと言える。

 日本では漫画やアニメに夢中になっている人は「オタク」と言われている。以前、子供を殺害したオタクの宮崎勤の事件でオタクのイメージが悪くなった。また、明鏡国語辞典を引いてみると、オタクは「趣味的な世界にひたすら没頭する閉鎖的な人」と載っている。日本人の「オタク」に対する意見はどんなものであろうか。安武さんによると、オタクは暗くて元気ではない人だそうである。オタクは社会的にその価値が理解されがたいが、少しずつサブカルチャーとして認められてきたと考えられている。

 オタク文化が海外にも徐々に広がっているようである。Aさんによると、漫画がたくさん輸出されるため、経済的に不可欠なものであると考えられているそうである。日本の漫画は英語をはじめドイツ語や韓国語など様々な言語で翻訳された。タイでもたくさんタイ語に翻訳されて、人気があるようである。

 40代以上のタイ人は漫画に興味があまりないようだが、子供の時から日本の漫画を読んだりアニメを見たりしている30代以下のタイ人は少なくないと言える。日本の漫画やアニメに夢中になっているタイ人は自分で「私はオタクだ」と言う人もいるようである。タイでは、「オタクはアニメ・漫画世界の達人」だと勘違いした人もいるようである。Aさんはこのことを聞くと、びっくりした。

 漫画が好きなタイ人の若者は、日本のようにコスプレーパーティーや同人誌パーティーなど様々なイベントを行う。バンコクにもメードカフェや漫画やアニメからのキャラクターフィギュア専門店もあるようである。つまり、タイは日本の漫画に影響を受けた。漫画はソフトパワーとして日本の文化を広めるものだと思われている。

 タイでは、「大人は漫画を読むべきではない社会」から「大人も漫画を読んでもよい社会」に変わっていくようである。29歳の私はまだ漫画を読み、40歳・50歳になっても漫画を読もうと思う。私のように思う人もいるらしい。20年か30年の後、タイは日本のような「漫画が好きな社会」になるのではないだろうか。

(2014年11月17日掲載)