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ニュージーランドの小学校 1


 清水紀子 (日本)

 私は小学校で働いていた時に休職し、家族を日本に残して9ヶ月間、ニュージーランドで日本語と日本文化を教えてきました。そのときの経験をお話しします。

 クライストチャーチ空港にはホームスティ先のお母さんと娘さんが迎えに来てくれました。母1人娘1人と猫が2匹の家族です。お母さんはスポーツが得意でかっこいい人でした。学校にランチ(子ども達が朝注文をしたもの)を届けるのが仕事です。娘さんもスポーツが大好きな活発な9歳の女の子です。

 お母さんは冷蔵庫を開けて「あなたの家なのだから、欲しい時にいつでもここにあるものは食べていいのよ。」と言ってくれました。いいえ、言われたと思います。初めの頃はわかる単語をたよりに言うことを推測するほかありませんでした。英語が堪能ではない私にとって、くせのあるニュージーランドの英語はほとんどどこかの外国語位にしか聞こえませんでした。それでも居心地のよさそうな家庭でほっとしました。

 2日後近くの小学校に早速出かけました。学校は市の中心部からバスで30分位の住宅街にあります。13クラスと特別クラス(special needs children)で児童数400人位の公立の小学校です。1年生から8年生までの子ども(年齢で言えば5歳から13歳までの子ども)がいます。クラスの人数は、25人から35人位です。校舎は、広い敷地に1階建ての教室が数クラスずつ固まって建っています。なんと言ってもびっくりするのは低学年用と、高学年用のアスレチックがあることです。遊園地にある丸太で作られたあのアスレチックです。それに東京の小学校の校庭の4倍くらいの広い芝生が広がっていることでした。

 校長室に行くと女性の副校長先生が出てきたので、自己紹介と日本語を教えることができることへの感謝の気持ちを伝えました。直接担当して下さる先生は外国語担当の先生です。彼女は同年代で、ゆっくりわかりやすく話してくれるので助かりました。

 私は3年生から7年生までの各クラスで週1レッスン(30分)の日本文化の授業と8年生へ週2レッスンの日本語の授業を担当することになりました。初めの1週間はいろいろな学級に入って授業を参観しました。あまりに日本の学校と違うので驚くことばかりでした。

 授業の進め方としては、最初にクラスの子供たち全員を集め、グループごとに何をするのかを説明します。子供たちは慣れたもので、先生の指示に従って自主的に学習説明します。子供たちは予定の学習を終えると、教室の隅に行き、他の子供の迷惑にならないよう静かに本を読んだり、ゲームをしたりするなどして遊んでいました。先生は、他人に迷惑をかける子供を厳しく叱ります。授業中に大声を上げようものなら大変です。そういう子は教室の後ろに立たされたり、教室から出されたりしてしまうこともあります。

 一年生のクラスを覗くと、入学したばかりの女の子がいました。NZでは、5歳の誕生日の翌日から学校に通い始めます。つまり、日本の学校のような入学式はありません。先に入学した子供の中から新入生の世話係が決められ、学校の約束事などを教えていました。 入学時期が生徒によって異なるわけですから、日本の学校のように生徒全員に同じ内容の授業を行なうということはNZでは考えられません。生徒の入学時期によって学習内容が異なるNZの小学校の授業システムは、全ての生徒に画一的な授業を行なう日本の教育システムと根本的に違うと感じました。NZの小学校での仕事はまだ始まったばかりですが、これから果たしてどんな発見があるのか、大変楽しみになってきました。

 NZの小学校に行き始めて間もなく、子供たち(日本の小学5年生に当たる)のキャンプに同行しました。キャンプでは、日本とは異なる点がたくさんありました。キャンプ地は学校から車で20分ほどのカイアポリという場所にある宿泊施設(ちょうど代々木公園に宿泊施設があるような感じ)でした。子供達は親の車に乗って目的地に行きます。施設には立派なキッチンがあり、そこで5人の親が3日間の食事を担当します。

 初日は、目的地に到着後すぐに博物館に行きました。宿舎に戻ってから、広い敷地の中でオリエンテーリングを行い、終った子から自由時間になります。子供たちは戸外にあるプールに出かけました。その日の気温はセーターの上にウィンドブレーカーを着て丁度いい位の温度(恐らく15度くらいでしょうか)でした。しかし、子供たちは準備運動もせず、いきなりプールに飛び込みました。風は冷たいのですが日差しが強いので水温は18度くらいあったと思います。子供たちはプールから上がるとタオルをかぶりブルブル震えながら野原を横切って宿舎に戻りました。そんな寒さの中で泳いでも風邪ひとつひく子がいなかったのですから、NZの子ども達はタフです。日本の学校だったらその気温ではまず子供たちをプールには入れないでしょう。入れるとしても、入る前にしっかりと準備運動をさせ、風邪を引かないよう着替えを持たせるなど具合が悪くならないように考慮します。日本の子どもがひ弱なのは、大人が配慮しすぎているからかもしれません。

 夕方5時からは、アブセイリングとアスレチックです。アブセイリングとは、ロッククライミングの練習施設です。そこでは5、6人のボランティアの人たちが指導してくれます。垂直の壁を登ったり降りたりするのですが、当然落下しないように体にロープをつなぎながら行います。それでも何人かは泣きながら挑戦していました。しかし子供達は、真剣に取り組み、成功した時には何とも言えない満足気な顔をしていました。多くの親が見にきていて、岩を登り終えた子供たちに「よく頑張った」とキスをして抱きしめていました。(ニュージーランドの親は日本の親に比べて子供とのスキンシップを大切にします。)子供たちは寒さの中、夜8時近くまでロッククライミングに取り組んでいました。

 キャンプ2日目は、長い散策です。川に沿って海まで素晴らしい景色の中を2時間くらいかけて歩きました。海でお弁当を食べ自然の勉強をしていました。驚いたことは、途中どこにもトイレが無いのです。どうするのかと思っていましたら、"トイレに行きたい子は藪の中へ行きなさい。"です。帰りは、疲れている子もいて、一番早い子と遅い子は1時間くらい差があったと思います。先生はどんどん行ってしまいますので、子ども達はばらばらです。日本の学校でしたら、実踏をして緻密な計画をたて、実施している間は、子供から目をなはしません。

 到着した子から自由時間。多くの子がプールに入っていました。プールに入らない子に、私とNZに来ている日本人の子達で"だるまさんがころんだ"を教えて楽しみました。

 その夜は、バーべキューでしたので、食事が終ったのが9時近くでした。それからキャンプファイヤーです。子供達は焚き火の周りで毛布をかぶりながら(凍えるほど寒くなっていました。)先生の読む星の伝説を聞きました。その後マシュマロバーベキューです。木の枝にマシュマロをつけて焼き食べます。終ったのは11時ころだったと思います。

 33日目は川のクルーズでした。上流から下流まで何とものどかな景色を見ながらの快適な1時間半を過ごしました。最後のおやつは子供達が持ち寄ったお菓子を並べてパーティです。親達がクッキーやケーキを作って子供に持たせた物です。おなか一杯お菓子を食べて楽しみました。帰りは迎えに来た親達とともに子供達は家へ向かいました。

 キャンプに初めて参加して思ったことは、日本の移動教室と比較すると自由な雰囲気の中で子供達がのびのびと楽しんでいたことです。日本では集団行動の大切さを教えることを第一に考えます。時間通りに起き、廊下に並んで食堂に入り、合図と共に食事をし、合図と共に寝ます。

 NZでは、学習と楽しみを第一に考えます。朝7時から8時の間に随時食事をとるなど、かなり自由があります。食事も食材をたくさん用意して自分で選ばせます。この違いは1人1人何でも違うのが当たり前という子供に対するNZの大人の考え方と、1人1人違っていても集団に合わせるように行動することが大切と考えている日本の大人との考え方の違いなのではないかと思います。日本の小学校でも集団行動の仕方を学ばせると同時に、状況を考え判断させるチャンスを与える必要があるのではないでしょうか。 (了)
(2013年11月30日掲載)