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エジプト人との結婚 2


 加緒里 (日本)

ピラミッド
【赤ちゃんが生まれました。加緒里さん提供】

―そうですか。違いますね。ところで親戚づきあいはどうでしたか。

加緒里:何かをしなければならないというような無理強いはなかったですね。まあ、家庭によりますね。私の場合はお母さんが優しい人であれこれ言わなかったです。家族をとても大切にしていて、毎週家族全員が集まる習慣があります。親のところに行くことは親孝行の一つです。両親もとても楽しみにしてご馳走を作って待ってくれていました。日本だとそんなときにお嫁さんが手伝うのは自然なことですが、エジプトでは手伝わなくてもかまわないんです。

―それはいいですね。

加緒里:それからエジプトは血族をとても大事にする社会です。だから兄弟の子ども達を育てるということがよくあります。

―そんなに血縁を大事にする社会で、育ててくれる人がいない孤児はどうなるんですか。

加緒里:エジプトは医療とか教育費が無料なんで…。

ー全員ですか。

加緒里:最低限の医療ですが。教育も高校までは無償ですし、大学も国立なら無料です。

―じゃあ、いいですよね。孤児達もやる気さえあれば大丈夫ですね。

加緒里:そうですね。道は開かれていますよ。でも親がいてもストリートチルドレンみたいな生活をしている子ども達もいます。不思議な社会ですね。日本では親が子どもをだしにしてお金をもらうとかは考えられないじゃないですか。

―結構、乞食もいるんですか。

加緒里:でも本当はそうじゃない人もいると思います。簡単にお金が手に入るのでついやってしまうとか。周りの人たちが助けてくれるからです。それはいい点でもあり悪い点でもあると思います。イスラム教では困っている人を助けるのは当然だからお金を持っている人が持っていない人にお金や食べ物を施すのです。無料で飲める水道もありますし、ラマダンの時など無料で食事が配られます。こういう状態だとそこからはい上がろうという人もいますが、何もしなくたってこのままでいいやという人も出てきます。

イハーブ:餓死する人はいない社会ですから。
加緒里:近所のレストランの前にも可愛い子どもがいていつも何か頂戴って言ってくるんですが、私は絶対にお金はあげないんです。食べ物を買って一緒に食べるとかしたことはありますが。こんなことしないで学校に行って勉強しなさいと言ってもらうんですが、せっぱ詰まっていないのでなかなか難しいです。食べ物も日本に比べるとすごく安いんです。だから最低限の生活ならできるんです。エジプトの不思議なところはすごく贅沢な生活ができる人と最低限の生活をしている人の差がすごくて物の値段もすごく違うんです。平均的なサラリーでどんな生活ができるかというと、日本でいう平均的な生活とはまったく違うんです。車とか電気製品とかがすごく高いんです。普通に高校大学に行って服装も普通の生活をしていても車は買えないし、海外旅行も行けないのが平均的なサラリーなんです。日本なら平均的なサラリーをもらっていたら、お金を貯めて車も買えるし海外旅行もできますが、エジプトは違います。エジプトで生産されている物があまりに少ないんです。輸入品が多いからそれに対する関税が高くて売値も高くなってしまうんです。ですから日本人が考えている平均的な生活とエジプトの平均的な生活が違うんです。

―じゃ、通訳とかしている人はエリートなんですか。

加緒里:先生とか肉体労働をしていない人はやっぱりエリートですね。だからといって給料がいいとはかぎらないです。政府関係、軍関係だとエリートで給料もいいです。社交クラブがたくさんあるんですが、軍のクラブに行くとベルサイユ宮殿みたいに豪華な建物で、中にはいると紅茶とかすごく安い。売っている物がとても安いんです。中にはレストランも喫茶店もあってレジャーランドのようです。入るには軍関係者だという証明が必要です。週末そこで過ごしたり、結婚式を挙げたりする人もいます。だからいとことか友だちのお兄さんだとか少しでも軍に関係がある人から証明書を借りたりしています。

イハーブ:1952年までは王国だったので、それを倒したのは軍で、それからずっと軍事政権だったから、つい最近まで、軍が強い力を持っていましたから。

―そうですか。ところでイスラム教はお酒も飲まないしたばこも吸わないし、厳しい生活だと思うんですが。

イハーブ:そうです。イスラムは道徳観念が強いんです。人が見ていなくても正しいことをしなければならないんです。
加緒里:それで日本人のほうがイスラム的な生活をしていると言われていますよ。日本人はいい意味では道徳観念があるんですが、反面それに縛られてストレスがたまるってこともあります。それで自殺する人が多いのかなあって思います。

―どうなんでしょうね。

イハーブ:賄賂っていうと日本では何百万ですが、エジプトではそうではありません。ちょっとしたお金です。それは世界中で当たり前のことのように思います。そのお金がないと生活していけないシステムに問題があると思います。
加緒里:チップ的な存在なんですね。私は最初払わなくてもいいと思っていたんですが、それを職業にしている人もいます。市役所で押し合いへし合いして自分の番が取れないときにお金を持っている人が自分の代わりにそういう人を並ばせてお金を払うということがあります。車も路上駐車するとおじさんが出てきてここはわしの場所だ、でも駐車している間警察が来ても大丈夫なように見張っておいてやるみたいなことを言ってチップをもらうことがよくあります。

―でも見張っていてもらうと駐車違反にならないんでしょう。

加緒里:そういう人たちがまた警察官にお金を払っているんです。初めこんなことは仕事として認められないと言っていたんですが、長く暮らしていると、仕事をしたくても仕事がないことがわかってきて、仕方がないと思うようになりました。

―じゃ、エジプトでは観光業以外仕事がないんですか。

加緒里:農業が盛んですね。ヨーロッパにも野菜果物などを輸出しています。野菜がとてもおいしいです。日本の野菜はもうまずくて食べられなくなるほどおいしいです。果物もとてもおいしいです。あと有名なエジプト綿ですね。誇れる物は農業と観光ですね。エンジニアの人に頑張ってもらって自分たちでいろいろ生産できるようになればもっといい国になると思うんですが、国が腐敗しているので有能な人たちは外に出てしまうんです。エジプトにいてもいい仕事がない、いい給料がもらえないからです。出られる人は運がいい人たちです。

―じゃ、教育熱心な親が多いんですか。

加緒里:公立に行かせないで高校までは私立に行かせています。大学は国立がいいんですけど。
イハーブ:私は国立の学校に通いましたがいい先生が大勢いいました。

―就職はどうですか。

加緒里:一般に求人広告を出すのは大使館関係や外資系企業ぐらいで後はコネです。

―それじゃ、コネがない人は頑張れないですね。

加緒里:そうですね。コネ社会ですね。

―意欲が削がれちゃいますね。古代にはあんなにすごい文明を築いたのに。能力的には優秀なんだから、本当にもったいないですね。

加緒里:本当にそうです。エジプトの改革が進んでいい国になって欲しいです。

―本当にそうですね。
(了)
(2013年8月6日掲載)