菖蒲の花を見る
− 連載エッセー「徒然の森」第66回

by 北嶋 千鶴子

 6月と言えば何と言っても菖蒲の花だ。いろいろなところへ菖蒲の花を見に行くが、今年は横須賀菖蒲園に決めた。平日のそれも昼頃とあって、着いたときにはもう帰りのバスが長蛇の列だった。暇人が多いんだなあと自分たちのことは棚に上げて感心した。

 菖蒲園は思ったより狭かったが、見せるための工夫がなされていた。同じ種類の花を一列に植えて見栄えをよくしている。また咲き終わった花を摘む女性に着物を着せて菅笠を被らせている。作業をする彼女たちが絵になるので、観光客たちがカメラを次々に向ける。中にはポーズを頼んだり一緒に写真を撮らせてもらう人までいた。

菖蒲園
【写真は、咲き終わった花を摘む菅笠姿の女性たち=横須賀の菖蒲園】

 菖蒲は2つずつ花を咲かせるそうだ。だから咲き終わった花は直ぐに摘み取らないと2番目の花に栄養が行かないのだと花摘みをしている女性から教わった。勿論、しおれた花が混じっていたら汚らしいからでもある。横須賀には小高い山がるので上からも菖蒲田全体が眺められるようになっている。それもまた違う風情がある。

 思えば大量の菖蒲の花を初めて見たのは明治神宮の内苑だった。桜を観る楽しさは知っていたがそのほかの花を観る楽しみをそのとき知った。その後何度も同じ場所を訪れた。一緒にいる人は違ってもいつも楽しい思い出を残した。
  毎年、堀切菖蒲園、水元公園、北山公園など様々な場所に菖蒲を観に行った。どこが一番いいとは言えない。たくさん咲いているがいいというわけでもない。狭いところにもそれなりのいや、かえっていい雰囲気を醸し出すこともある。

 同じところもいいが、見知らぬ場所に行くときは本当にわくわくする。今年の菖蒲も当たりだった。
(June 17, 2008)