隔世遺伝の不思議
− 連載エッセー「徒然の森」第64回

by 北嶋 千鶴子

 孫ができてそっくりと言われるたびに遺伝の不思議さを感じる。孫と私のことではなく、息子と私の父のことだ。姿かたちだけでなくその動作が似ているのだ。
  私の父は服装に関心がなく、どこへ行くのも、それがたとえ銀座だったとしても銀行会館だったとしても、サンダル履きだった。年頃になると、私はそれが恥ずかしくて父と一緒に外出したくなかったものだ。

 ある日息子と外出先で落ち合った。そのときの息子の服装はシャツもズボンもよれよれだったのはいつものことだったが、彼の足下を見て唖然とした。サンダル履きだったのだ。そのとき私は息子と父の姿が重なった。

 私は息子に父がサンダルでどこへでも行っていたと話したことは一度もなかった。また今は父の時代とは違って、若者はおしゃれに気を遣っている。サンダル履きで電車に乗る若者など、海へでも行くのでなければお目にかかれない。

 そういえば父と息子はよく似ていることが他にもあったことを思い出した。2人とも大変な子供好きなのだ。父は工務店を経営していて建築現場によく行った。子供が大好きだったので、建て主の子供とよく遊んでいて大工さんなどにあきれられていた。ある時、父が建て主の息子と一緒に近くの公園に遊びに行ってしまい、子供がいなくなった、誘拐されたのではないかと大騒ぎになったことさえあった。今だったら笑い話ではすまなかっただろう。

 息子も同様で、電車の中などで隣に子供がいたりすると決まって相手をしていた。相手が赤ちゃんであっても上手にあやしていた。私は男の子なのに珍しいなあと思っていたが、もしかするとこれも遺伝のなせる技なのかもしれないと思い始めている。
(April 30, 2008)