編集者のおかげ
− 連載エッセー「徒然の森」第62回

by 北嶋 千鶴子

 マンガの作成に編集者が大きな影響力を持つことが多いと聞く。人によっては何とセリフの位置や大きさなどの細かいことまでも指示することもあるそうだ。また編集者によってはマンガ家が絵を描くための資料を集めてあげたりもするらしい。確かにマンガ家一人ですべてを賄うのは無理がある。マンガは二人三脚で作られていると言っていいのかもしれない。

 マンガほどではないが私も編集者の力が本の完成に影響すると感じている一人だ。私の場合は日本語のテキストの作成なので、編集者の助言で文を修正することがある。私は人とは違った工夫を本に取り入れたいと考えている。一人で書いているとその気持ちが強くなりすぎて独りよがりになってしまうことがあるのだ。それに単なる例文にさえ自分では気づかない癖が出てしまうものだ。

 ある編集者に「なるべくポジティブな例文を作って」と言われたことがある。否定的な文ばかりでは学習者の気が滅入ってしまうからだそうだ。少しでも楽しい気持ちで勉強が続けられるようにとの配慮だった。文を作っている私にはそのような視点が欠けていた。

 今回韓国で出版した中級用の会話本の作成ではレベルを下げるようにとの指摘を受けた。私の考えていた中級と韓国での中級が違っていたこともあって、かなり変更しなければならなかった。お互いに納得がいくまでにメールで何度連絡したことか。また編集の段階でハングルでちょっとした日本事情も入れられた。学習者にさらに日本に興味を持ってもらうことができ、日本語学習を続ける励みになると思われる。

 長年の編集者との付き合いで私自身も成長していると感じている今日この頃である。
(Februar 15, 2007)