マジックにはまる
− 連載エッセー「徒然の森」第58回

by 北嶋 千鶴子

 マジックブームらしい。私のような者まではまっているのだから、マジックファンは多いと思う。

 ひょんなことから竹内先生にマジックを習い始めて1年以上になる。手を使えば老化防止になると思ったこと、学生たちの前で歌を歌いたくないこと、孫に見せたいということなどが始めた動機だった。

 習い事が長続きしているのは、派手なマジックと違って全く種がないことが理由の1つだと思う。種があるマジックだと、その種をいろいろ集めなければならないし、テクニックがなくても直ぐにできてしまう気がする。その点現在習っているマジックは訓練次第で鮮やかにできるのがいい。とはいえ私はまだスムーズにできるというレベルには至っていない。

 クラスは60歳以上の年寄りばかりで、先生も83歳である。参加者のほとんどが孫を驚かせたいという動機で始めている。私は家で練習する時間もないのでさっぱり上達しないが、プロ顔負けの手さばきを見せる人もいる。男性のほうが熱心で上手なのは、家事などを他人に任せ、マジックの練習に専念しているからに違いないと女性たちはやっかんでいる。私たちにはそんな時間がないのよと。事実寝たきりのご主人や両親を抱えている人もいる。ここにいるときだけしかできないけれど、とても楽しいから止められないという話も聞いた。

 マジックは見ているだけでも楽しい。先生が新しいマジックを披露するたびに歓声があがる。年をとると何かに驚くということが減ってくる。しかしそんなとき、子供と同じ気持ちになっているような気がする。

 見るだけでなくやるのもまた楽しい。仲間うちでやっているだけでも楽しいのだから、実際に披露して人を驚かせたらもっと楽しいと思う。今から楽しみだ。
(October 15, 2007)