自分らしさを盛り込んだ日本語教科書
− 連載エッセー「徒然の森」第52回
by 北嶋 千鶴子

 最近、日本語会話や日本語能力試験問題集など、いわゆる本格的な日本語教材の執筆に取り組んでいます。

 いま書いているのは、韓国の出版社から依頼された「中級会話」の教科書です。
  このジャンルの本は今まで何冊も出版されています。そこに新しく加わるわけですから、私ならではの特徴を出したいと考え、異文化体験を中心に構成しました。自分の国と日本との生活や文化、考え方の違いを知り、そのうえ共通点も併せて会話形式で学べるようにしました。さらにカタカナや漢字のクイズを取り入れて、少しでも楽しめるようにと考えています。

 私が初めて日本語の本を書いたのは10年以上も前のことです。
 当時は教えることがとても楽しく、学生が卒業した後も付き合いが続いて、日々の生活は充実していました。学生たちとの楽しい思い出も山のようにありました。日本語教師は天職だと思えるほど仕事が好きでした。そんなとき私の勤めていた日本語学校が閉校することになったのです。反対運動を続けましたが、閉校はもう時間の問題でした。その時このまま仕事がなくなるのは寂しいなあという焦りのような感情が初めて起きました。日本語教師になって10年も経っていました。私は記念に何か出したいと思いました。それも今までにないような日本語の本です。

 授業中、学生たちは絵入り教材を楽しんでいました。そこで考えついたのがクロスワードパズルを使って語彙を増やせる本でした。この本は最初は4人の先生と作り始めましたが、結局関先生と私の2人だけが最後まで残りました。そして完成したのが『ことばれんしゅうちょう−にほんごであそぼうシリーズT』です。

 この本がきっかけで、私はそのあと次々に日本語の教材を出版することになりました。その全てが他にはないような、ちょっと変わった本でした。専門家にはそれなりに評価されましたが、ベストセラーにはなりませんでした。いま思うと少し自己満足に陥っていたかなと反省しています。

 昨年『読解問題55』シリーズといういわゆる日本語能力試験問題集(初級、中級、上級)を出しました。本の中に55問が出題され、解答が付いているのですが、日本でいま起きている現象や話題になった事柄を取り上げ、生活に密着したテーマを選んで特色のある問題集に仕上げました。問題集であることに変わりありませんが、問題の中身をおもしろく、新鮮な話題にしたので、既存の問題集とはだいぶ趣が違っているはずです。

 この問題集に取り組んだきっかけは、韓国の編集者からの依頼でした。「普通の本も書けるでしょう」「問題集を作りましょうよ」と言うのです。

 そしていまの私がいます。最近はどんな本にも自分らしさを反映することができるのではないかと思うようになりました。そして教えることより書くことに時間を注いでいるこのごろです。
(April 15, 2007)