ウソとホントの界を歩く
− 連載エッセー「徒然の森」第51回
by 北嶋 千鶴子

  「お散歩演劇」というのを見に行った。お散歩演劇というのは劇場ではなく地域を回りながら演技を見るという形式だ。それは私にとって初めての興味深い経験だった。

 その日小竹向原に集まった観客は10数人、一緒に回って話をする演技者が1人だった。その日彼女が話したことは100%が事実でもなく、だからといって全てが作り話というわけでもない。私たちはゆるゆると歩き、神社やちょっとした遺跡では歩みを止め、彼女の語る昔話や身の上話を聞いた。作者が地域のことを調べ上げて丁寧に話を作り上げたことが感じられた。途中の何気ない風景の中にちょっと異質な人物が現れたなと思うと、それが他の演技者だった。彼らは歩いたり空を眺めたり様々な演技をしていた。彼らは風景に溶け込まず浮いた感じだった。観客は彼らが演技者だと知っているからいいが、何も知らない人々には奇異に感じられるので振り返ったり、じろじろ見ている人もいた。だから変な人がいると警察に通報されたこともあったそうだ。

 劇場という枠から出て演技することは難しいことだと思った。劇場では観客はこれは本当のことではない、劇なんだと思って安心して見ているのかもしれない。しかし屋外では本当のことと作りごとの堺がはっきりしないので戸惑ってしまう。実際、私たちが回った地域の話はほとんどが真実だったと思う。しかし彼女の語った子供時代の話は作り話だと思う。その曖昧さがお散歩演劇の良さかもしれない。私は元々知らないところに行くことやそこでのちょっとした発見に興味を持つほうだったので、とても楽しかった。一緒に参加した夫の話では、土地の歴史や現状からくみ上げるお散歩演劇作品がいくつもあり、それぞれ形態が違うということだった。
(March 15, 2007)