おおらかな韓国の結婚式
− 連載エッセー「徒然の森」第50回
by 北嶋 千鶴子

 今年の1月末、以前日本語を教えた韓国人の結婚式に招待され、ソウルへ渡った。韓国の結婚式に何度か参加したことがあるけれど、いつもおおらかなやり方に驚かされる。今回も同じような経験をした。

 私たち日本から出席した人は同じテーブルになった。席に着いたときテーブルにはお菓子や飲み物が用意されていて、すでに宴会が始まっていた。どのテーブルでも飲んだり食べたりおしゃべりしたりして結婚式を楽しんでいた。でも私以外はこういう韓国式は初経験らしく、正式に開会の挨拶もないのでどうしたものかと食べ物には手を出さなかった。式が終わってからと考えていたのかもしれない。

 韓国では招待状は送りっぱなしなので、主催者側はだれが来るか来ないか予測して席を用意しなければならない。当日予想以上の人がお祝いに集まったらしく、会場に入りきれないほど大勢の人がやってきた。

 韓国では宴会の席は決まっていない。早い者勝ちになるので、日本から来た私たちでも遅れて会場に着いたら座れなかったかもしれなかった。後で聞いたらホールには300席用意したけれど満席になり、入れなかった人は200人を超えたそうだ。彼らは食券をもらって他のホールに案内されたと聞かされた。

 出欠を厳密にとるわけではないので、全く関係ない人が紛れ込んでもわからない。実際、食事を目当てに入り込む人が結構いるらしい。関係者の目印のため出席者の腕にシールを貼った式に参加したことがある。しかし普通はそんな堅苦しいことはしないらしい。

 あるとき中国からソウルに出張していた学生と一緒になったことがあった。彼女は上司を連れて私と韓国の結婚式に出席した。韓国の結婚式は誰が行ってもいいし、服装もかまわないと聞いたからだ。花嫁とは式の前日に会ったばかりだったが、是非いらっしゃいと言われて参加したのだ。そういうことが普通に行われるのが韓国式なのかもしれない。韓国人はそれを誰も変だとは考えない。当たり前のことだと他の学生たちも言っていた。本当におおらかなものだ。

 お決まりの音楽とともに花嫁花婿が入場して西洋風の挙式が始まったが、日本のように厳粛に執り行われるわけではない。飲んだり食べたり話したりみんな自由に振る舞っている。今回は式と披露宴が一体化したものだったのでショーを見るように式を見ながら食べるということになったのだろう。20分ぐらいで式が終わり、写真を撮ったりしながら宴会は進んでいった。

 乾杯もスピーチもない。一緒にいた日本人はスピーチを用意していたらしくはじめはメモを見ていたがそのうちに勝手が違うことがわかってきた。
  「食べるだけなんですね」とか「日本とは違いますね」「何もないんですね」などと話していた。私は日本語学校で教えたかつての学生たちに会えただけで満足だった。

 しばらくして帰り始める人が出始めるとその数はどんどん増えて、日本人だけが取り残されてしまった。誰も「お開きです」とは言わなかったが、披露宴は終わったらしい。テーブルやいすが端から片づけられ、私たちもそこにはいられなくなった。

 その後、わざわざ日本から来た人や友達を集めて2次会が開かれた。私は翌日早い飛行機で帰国するので出席しなかったが、大いに盛り上がったらしい。
(Februar 15, 2007)