好きなことを仕事にする
− 連載エッセー「徒然の森」第47回
by 北嶋 千鶴子

 学生の一人が母国のカナダで宝石デザイナーになってかなり成功している。今では新聞や雑誌テレビにも取り上げられすっかり有名人になった。

 アクセサリーに全く関心がない私が彼女の作品を評価することはできない。しかし私はすぐ彼女の作るアクセサリーと他の人の作品を見てその違いに気が付いた。彼女のアクセサリーはアンバランスの美を持っていた。だから人と同じことをしたくないと思っている私はそれだけでも彼女のアクセサリーに高い評価を与えたい。

 初めて会ったときの彼女はちょっとお洒落な可愛らしい子という印象だった。日本にいる間に日本の物が可愛いと言って靴やTシャツなどを次々に買い込むので「この子大丈夫かな」とかなり心配した。帰国するときには呆れるほどの品物を国に送っていた。

 普通、趣味あるいは興味があることとそれを仕事にすることは別だ。彼女は秘書をしたり普通の事務員として働いていて、ファッションとは何の関係もなかった。だから宝石デザイナーになるとは想像もつかなかった。

 彼女を変えたのは日本をはじめアジアの国々を回るうちに、カナダとは違う文化や生活に触れたことではないかと思う。それまで知らなかった世界にショックを受け、深く影響されたようだ。彼女は自分がいかに恵まれた生活をしていたかとよく言っていた。

 本当に好きなことをしようと考えたのだろう。帰国後再び昼間は事務員として働きながらこつこつとネックレスやブレスレット、イヤリングを作り上げていった。そしてある日作品を持って若者がよく行く店に品物を置いてくれるように頼みに行った。彼女にそんな積極性があるとは思わなかった。

 好きなことのためなら何でもできるのだろう。次々と新しいアクセサリーのデザインに打ち込んでいると、あっという間に夜中になってしまうとよく言っていた。どの仕事が自分に合っているかはわからない。でも好きなことをするのもいいことだと彼女を見るたびに考える。
(November 15, 2006)