若いときの一人旅
− 連載エッセー「徒然の森」第41回
by 北嶋 千鶴子

菊 最近は一人で旅行することはほとんどなくなった。また自分で計画を立て友達と一緒に旅行することも減ってきた。全部パックになった団体旅行がお得なので、ついついそれで間に合わせてしまうのだ。自分で計画を立てるときの往復交通費で、パック旅行なら宿泊も現地でのこまごました経費もすべて賄える。それに、交通が不便なところへ簡単に連れて行ってくれるもありがたい。友達との個人旅行だったら、莫大な時間がかかったり、タクシーなどの経費も馬鹿にならないだろう。今では旅行の意味も若いころと違っているので、団体のパック旅行でも結構楽しい。友だちと行くことが多く、おしゃべりも重要な要素だからだ。

 若いころの一人旅ではよく失敗した。ある日時刻表で後から来る列車に乗り換えようと駅で降りた。降りる人がわずかで、そのわずかな人たちもみんな駅から出て行ってしまってホームに私一人が残された。それでもどうしてみんな乗り換えないのかなとちょっと不思議に思ったが、自分の間違いに気付かなかった。列車が時間になっても全然来ない。時刻表をよくよく見たら季節列車だった。結局もっと遅く目的地に着くことになった。こんなことはしょっちゅうだった。

 お金がないから駅の立ち食いそばをよく利用した。栄養失調にならないように無理して牛乳を飲んだ。おかげで牛乳嫌いが治った。安全のために宿泊場所にユースホステルを確保した。当時は男子学生はよく野宿していたので、男だったら駅に泊まれたのにと残念に思ったものだ。

 予定も立てずにもっぱら歩いた。だから、その土地の名もないような寺や神社や公園などにも詳しくなった。気に入れば何時間でも同じ場所でぼーっとしていた。私の旅は何だったのか自分でも分からない。気障に言えば自分探しの旅だったのかもしれない。

 それにしても当時は親切な人が多かった。途中で知り合った奈良女子大の学生の寮に泊めてもらったり、時計が壊れたときに腕時計を貸してもらったり、女の子が暗くなって一人で歩いて行くのは危ないからと車で送ってくれた八百屋さんもいた。いろいろな経験をした一人旅だった。
(May 15, 2006)