修理して大事に使う
− 連載エッセー「徒然の森」第36回
by 北嶋 千鶴子

11月の花 カナダ旅行の冷や汗体験は前回書いたので、今回は驚いた話を紹介したい。
  滞在中に友だちの両親の家に招待された。友だちの案内で中を見せてもらったが、日本とは違って広々とした部屋、とりわけゆったりしたソファの置いてあるリビングが気に入った。台所や洗濯場などが機能的に作られていて住み良さそうだった。その家が築40年以上も経っていると聞いてまたびっくり。新築のようにきれいだったのでとても信じられなかった。

 日本では40年も経った古い家は建て替えてしまうことが多い。古いのにこんなにきれいな家はめったにない。でもカナダでは珍しいことではないそうだ。修理しながら大事に使っていくというのだ。その家はお父さんが常に手入れをしていて、地下に作業部屋があって大工道具やペンキなどが整然と並べられていた。ペンキも壁紙も汚くなったらお父さんがすぐに変えるという。浴室や洗面所は新しくしたばかりだ。本当にどこから見ても新築そっくりだった。

 妹さんの恋人が買った家がまた大変古い家だった。彼はそこを日曜大工でよみがえらせようと計画中だった。特別なことをするというのではなく当たり前のように話していた。

 私は数年前、カナダに留学していた息子の下宿先を訪れたときのことを思い出した。ご主人は80歳近かったのに何でも自分で修理する人で、丁度そのときシャワー室を新しく作っているのだと言って見せてくれた。地下に完成間際の一坪ぐらいのシャワー室があった。びっくりしている私に、組み立てキットが売っているのだから簡単だと教えてくれた。カナダは人件費がとても高いので何でも自分でするのだと言って笑った。後は水道とガスの管をつなげばいいんだとも言っていたが、私はそんなことを素人がしてもいいのだろうかと心配になった。

 日本でもペンキ塗りなど自分でする人もいるが、ここまでする人はいないだろう。しようと思っても多分許可されないだろう。国が違うと生活の仕方が随分違うものだ。
(December 15, 2005)