整理好き
− 連載エッセー「徒然の森」第31回
by 北嶋 千鶴子

 部屋の中をいろいろ飾るのが嫌いだ。というより、いろんな物を部屋の中に置いたり積み上げたりするのが嫌いなのだ。

 私の母は、何でも部屋に出しておく人だった。私の家は収納スペースが結構あった。けれども母は整理が下手で、というより整理をしたことがないので、会社の領収書から本や雑誌、新聞までごちゃごちゃと棚の上に置かれていた。さすがに床に物を置いてゴミの中で暮らすほどではなかったけれど、それでもかなりのものだった。物心がついてから、それが気になって仕方がなかった。いま何でもしまってしまうのは、その影響かもしれない。

 勤めた会社は最小限必要な物しか机の上に置かない方針だった。書類は棚にしまいこまれ、電話と経理の伝票入れぐらいしか机の上になかった。家から会社に通っていたのでいつもその落差を感じていた。

 ある有名人が食器は大皿1枚、夫婦の取り皿2枚、それに茶碗とお椀があれば、後は何も要らないと言っていた。そこまで徹底できないが、なるべく物は持ちたくない。
  昨年末の引っ越しで、その前の引っ越しの時から一度も開けずに10年もそのままだった段ボール箱が10箱以上出てきた。みんな夫の物だ。夫は何でも取って置きたい人だから、何かのときに必要だとか、急に調べたいときになかったら不自由だと言う。私も仕事用の本や資料があるが、夫ほどではない。

 新しい家は狭い。収納スペースはあまりとれなかった。夫も仕方なく本やCDを大量に売ったり人にあげたり、最後には捨てたりした。荷物を整理しているうちに、押入の中から、まだ使えるコンピューターのキーボードが10個も出てきたのには呆れてしまった。もったいないと思ったが、口うるさくせっついて、それも全部処分してもらった。

 そして新しい生活が始まった。夫のスペースにはまだ段ボールが積まれている。目障りだが、以前と違って部屋の片隅の極狭いスペースだから、私は何も言わない。で、なるべく見ないようにして暮らしている。

(July 15, 2005)