ケガの功名
− 連載エッセー「徒然の森」第30回
by 北嶋 千鶴子

 階段から落ちてケガをした。裏がフェルトのスリッパを履いて滑ったのだ。両手に物を持っていたので腰からもろに落ちた。あいにく誰も家にいなかったのでしばらく動けず、そのままじっとしているほかなかった。足腰すべてが痛かったが、特に右手が痛くて動かせなかった。

 医者に行ってレントゲンを撮った。幸いなことに骨は折れていなかった。ひびも入っていなかったが、腕はギプスで固定されてしまった。2週間たっても一向によくならない。たいしたことはないと思っていたが、痛みもとれないし、今度は指がこわばって動かなくなっていた。間もなくリハビリを始めた。しかしいまだに指はかたいままだし手首は痛くて動かせない。

 仕事は左手でする。字は書けないからキーボードを打つだけだ。右手が使えないと能率は落ちるし、肩がこってくる。書類を作ることもできないから、仕事はたまる一方だ。

 誰でも使わないとその部分がかたくなって固まってしまうそうだ。だからお年寄りが病気でやケガで入院してそのまま寝たきりになるのもうなずける。

 というわけで家事は夫にお任せということになった。今までも協力的だったが、今度は本格的に主夫をするのだ。大変なのは3度の食事の用意だ。私ほど上手にできないが、何とかこなしている。それどころかだんだんいろいろな料理を作ってくれるようになっている。すごい進歩だ。これがケガの功名というのだろうか。しばらくこのままのほうがいいような気がしてきた。

(June 15, 2005)