隅田川の桜
− 連載エッセー「徒然の森」第16回
by 北嶋 千鶴子

 桜の季節は落ち着かない。毎年いろいろなところに花見に行きたくなる。

 桜には水が似合う。先日夫と水上バスで隅田川の桜を見に行った。日の出桟橋から浅草まで約50分、川沿いの桜を見ながら川をさかのぼって行く。普段なら すごい人出だと思うが、もう肌寒い時刻だったので船は思ったより空いていた。 川の水が汚いのはちょっといただけなかったが、それでも以前よりずっときれいになったのだという。汐留やお台場など今流行の地区では、超高層のビル群が日本の繁栄を誇っていた。

 船はわざわざ目的地の浅草を過ぎ、川上の桜橋からぐるりと回って船着き場まで戻るコースだった。だから花見の船旅は十分楽しむことができた。

 下船してから一時間ほど、船から眺めた桜の下を歩いた。同じ桜がまた違う姿を見せていた。お薦めの花見コースの一つだと思う。あちこちで宴会が開かれ、町内会の店も繁盛していて、家庭的な雰囲気が漂っていた。

 ただ、船からも時折見られたホームレスの雨よけの青いビニールシートの小屋がすぐそばにあると思うと複雑な気持ちになった。桜の季節には花見客のために追い払われると聞かされるとなおさらだ。ゴミ箱のビール缶や段ボールを集めている姿を見ると、幸せな気持ちも半減してしまう。心が痛い今年の花見だった。
(07/04/2004)