バレンタインデー
− 連載エッセー「徒然の森」第14回
by 北嶋 千鶴子

 2月14日はバレンタインデー。バレンタインデーというといつも上智ボランティアセンターでアシスタントをしていたときのことを思い出す。

  ある日、アメリカ人のシスターがバレンタインのクッキーを焼いてきてくれてこう言った。

「どうして日本ではバレンタインデーが女から男に愛の告白をする日なんてことになったの。アメリカでは愛を確かめる日で、お互いにプレゼントを交換する。女の人だけがプレゼントするなんてことは絶対にないわ」

 彼女は日本に布教に来て10年以上たっていたが、この日本の風習にはいたく憤慨していた。宗教心がないのに外国の宗教行事を何でも取り入れる日本の風習が理解できないようだった。クリスマスのときも、日本のお祭り騒ぎを苦々しく思っているのがわかった。バレンタインデーが近づくと、センターを訪れる学生たちに手作りのクッキーを勧めながら、バレンタインデーの意義や歴史などを繰り返す話しかける彼女の姿が目に浮かぶ。

 彼女の日本語は完璧に近く、初めて会った時、どうしてこんなに日本語が上手なんだろうとびっくりした。私は彼女の下で2年余り働いた。バザーを開いたり、当時としては珍しかった未婚の母のための施設を支援したり、彼女は巧みな日本語でさまざまな活動を続けたが、今はアメリカに帰っている。私のホームページに「外国人の日本体験」を書いてくれたシスターだ。

 私が日本語教師を目指し、現在でも日本語教育に携わることになったのは、彼女と出会ったことがきっかけだった。初めての出会いで彼女の日本語力に驚かされ、日本語を教える仕事の存在を知ったからである。
(07/02/2004)