− 連載エッセー「徒然の森」第11回
by 北嶋 千鶴子

 本の重さで家が歪む。風呂場のタイルにひびが入る。天井に隙間ができる。ドアが閉まらない。床がきしむ−。

 毎年暮れになると古本屋を呼んで要らない本を引き取ってもらっているのに、いっこうに減らない。この状態で地震が来たら本に押しつぶされて圧死するに違いない。夫は本の下敷きで死ぬなんて本望だという。

 こんな状態だからわが家では本を買うときその重さが問題になる。「重い本は買うのやめて〜」

 小学校で文字を習って本の面白さを知った。しかし家には一冊の本もなかった。新しい学校には図書館がなかった。本が読みたかったが私の周りに本がなかった。そういう時代だった。

 ある日友達が学校に本を持って来た。休み時間に子供達がその一冊の本に群がった。なかなか読む順番が回ってこない。それに短い時間では読み切れない。そこで私は授業中机の下でこっそり読んでいた。もちろんしかられた。そんなことが何度かあった。とうとう通信簿、今の成績表に、「授業中、教科書以外の本を読んで困る」と書かれてしまった。でもほかに方法がなかった。

 しばらくして町に貸本屋ができた。3坪ぐらいの広さの店に漫画などがいっぱい並べられていた。まず「手塚治虫」や「石森章太郎」のストーリー漫画に夢中になった。次に「江戸川乱歩」や「シャーロックホームズ」などのミステリー物。5円あるいは10円で別世界に入れる。本がどんどん好きになっていった。

 今はもっぱら図書館を利用している。図書館は本が売れない理由の一つとして非難されているが、私にとっ無くてはならないものだ。「日本語」関係以外の本はほとんど借りて読んでいる。家に本が増えることもないしありがたいことだ。
(07/11/2003)