夏の夜空に星を見る
− 連載エッセー「徒然の森」第7回
by 北嶋 千鶴子

 小学校5年か6年の時だった。ある夏の日、学校へ行って星を見ないかと同級生に誘われた。行ってみると大きな天体望遠鏡が校庭に据え付けられていた。先生と見知らぬ男の人が星を見ていた。近づいていくと「どうしたんだ。君たちこんなに遅く」とびっくりしたようすだった。しかし追い返されることもなく、私たちもそのまま星を見せてもらった。

 土星の環も月のクレーターも、その時初めて見た。クレーターの大きさにはびっくりした。天の川には、肉眼で見るよりずっと多くの星が輝いていた。本当に川のように見えた。ああ、だから天の川と言うんだと妙に納得した。

 その見知らぬ人が、星の観察や研究で有名な野尻抱影(のじり・ほうえい)先生だと知ったのはずいぶん後のことだった。

 当時学校の近くに住んでいらっしゃった野尻先生が、私たちの先生のために特別に星を見る会を開いたのだった。

 その後星の観察に興味を持った私たちは、たびたび夜集まった。庭にゴザを敷いて寝転がりながら星を探した。なぜか夏になると、星を見ようということになった。虫除けスプレーなどない時代だったから、あちこち蚊にさされたのは言うまでもない。かゆくて我慢できなくなって、30分もすると星の観察は終わりになるのだった。
(07/07/2003)